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     2018.09.07 Friday
*編集の容易さから、note.muに移行します。しばらくはブログと同時投稿にしてみます。noteでは有料記事を増やしていく予定です。記事1本は100円ですが、記事が掲載される「マガジン」は300円で、マガジンを購入するとその後、そのマガジンに含まれる全ての有料記事が見られます。記事の途中まで無料で、ブログの記事はその無料部分を載せています。その先の有料部分では、より臨場感のある、具体的な情報を載せようと考えています。ご検討のほどを!


***
飛行機は無人化するのだろうかなんて話を先日家に遊びにきた師匠とした。

ちょうど私の家がある街でデューティが終わって、DH(デッドヘッド:仕事のためにパイロットが客室に乗って移動すること。「Paxing」と言ったりもするが「死んだ頭」の方が言い得て妙だ。)でベースに戻る予定だったのを次の日に変えてもらったようだ。私も同じようにウェリントンに戻るDH便をキャンセルして自宅待機していた。ユニフォーム姿の師匠を迎えに言って、自宅へ送迎。私服に着替えてやっと一息。暗くなるまでだらだらと過ごす。

夜になり、妻が作ってくれたラムラック(羊の高い部分)の焼いたやつを肴に、少し前に日本で買ってきて取っておいた日本酒をあわせた。久々の日本酒は上品な香りで全く、よい。

パイロットが集まると、飛行機やフライトの話ばかりをしていると思うかもしれないが、そんなことはなくて、むしろフライトの話は避けるような印象さえある。私は新しい世界に入ったばかりで、色々と質問したいのだが、仕事を終えた直後の頭で「DME Arcのプロファイルモニター」やら「VNAVが外れる時のロジック」やら「カンパニーフィロソフィー」やらをくそ真面目に論議するのは疲れる。私もデューティが終わった後、ホテルに入ると今日のフライトの復習のためにノートをつけたいなと思うのだが、ベッドに倒れこむと、2度と起き上がってノートをつけるなんてことはできない、ので、よくわかる。

宴もたけなわになって、妻は翌日仕事なので先に寝、たわいない話をしてさてそろそろ寝ますかねとなったところでふと、冒頭のテーマを口にしたのだった。

私は、「最初の飛行機は5人とか6人乗りだったんですよね、それがだんだんと3人になり、コンピューターの恩恵を受けて今は2人になっているなら、例えばAIが発達したらいつかはパイロットはいなくなるかもしれませんね」なんて言ったのだが、師匠の意見は違った。

一人になることはあるかもしれないが、0人になることはちょっと考えにくい、とのことだった。私は、その後の師匠の話を聞いて、人の命を乗せた旅客機の先頭の座席に座ることの意味を、全くわかっていなかったと痛感した。

インストラクターをやっているときに常々疑問に思っていたのは、なぜ私よりも年齢も人生経験もひょっとしたら技量もすくない(と私が感じた)学生が、学校を卒業した後、サクサクとエアバスのレーティングを取って「エアラインパイロット」としてデビューし、何事もなくやっていけるのだろう、ということだった。彼らが私よりも努力していない、と言っている訳ではない。ニュージーランドと、アジア圏ではパイロットのキャリアパスが違うので、うちの学校を卒業して母国へ帰り、若くしてエアラインパイロットになる人の割合が、多く見えるのはむしろ当たり前なのだ。そういうのは全部わかった上で、彼らだって努力しているということも全部わかった上で、じゃぁなんで俺は、となってしまう。いかにも器の小さい感想だが、それが本当だ。インストラクターとして5年間もくすぶり続け、上司の評価は低く、一回一回の試験だって本当に限界まで準備しても「可」的な評価しかもらったことはないような私にとって、彼らのサクサク度合いは驚異的だった。私にとって、エアラインに合格することというのは非常に遠い目標なのに、なんで彼らはこれほど悠々とこの壁を越えていけるんだろう。

フェイスブックに会社のユニフォームで満面の笑みを浮かべてる若い人たちの写真をみて、一人の学生がキャリアを掴んだことに対する喝采とともに、羨ましさを感じていたものだ。エアラインパイロットって、そんなに簡単なものなのか?カッチョいいユニフォームを着て、東洋人がかぶるとキョンシーみたいな印象になる非日常的なデザインの帽子を被って、自分の身長ほどもある直径を持つエンジンの脇に立つ彼らを見て、失礼ながらも、本当に疑問に思っていた。

一度、今のエアラインに就職する1年くらい前に、違うエアラインの試験を受けたことがあった。これは香港の会社だったが、2日ある試験のうち、1日目のシムチェック、コンピュータ試験、グループワーク試験に通らないと2日の面接に進めないという厳しいもので、しかもフィードバックは一切なし。会社が手配してくれた高級酒店(ホテル)は香港國際駐機場に隣接していて、窓からでっかい777や330がひっきりなしに見える。そんな場所で面接する予定だった2日目が白紙になって、丸一日やることがなくなった。一緒に来た妻はホテルの部屋で泣いてるし、どの面下げてこの世に存在しろっていうのか。

少々脱線したが、上記のエアライン以外にも、モルディブの水上機の会社や、ニュージーランドのあらゆるチャーター会社、オーストラリアベースのエアラインなど、色々なところに応募したが、結果は全てNO。そういう経験もあって、どうやら私はパイロットとしての資質がもしかしたら本当に欠けているのかもしれないという気分によくなったものだ。だって、そうじゃなかったら、あんなに楽しそうな新人パイロット達の写真が、フェイスブックにポコポコあがってくるはずがない。人には得手不得手があって、私はこんなに頑張ってコミットしているのに結果が出ないということは、彼らが得手としていることが私には不得手なのではないか。そうじゃなければ説明がつかないじゃないか。

今のエアラインに入ったあとでさえ、心のどこかでこの「俺ってパイロットやってていいのかね」という疑問は、バーベキュー後の炭の燃えかすのようにブスブスとくすぶり続けていた。消えたと思っていても、シミュレータトレーニングで結果が芳しくなかったりすると、途端に炭に火がつきそうになるわけだ。どうして結果が出なかったのか、という直接的な原因については、先回の記事の通り、解決していたが、そもそもの資質を自分自身が疑うという心理的傾向については、見て見ぬ振りをして来た。

でも、今回の師匠の、「飛行機は絶対に無人にするべきではない、なぜなら」という話を聞いて、ついにこの弱っちい心の動きを完全消火することができた。

その日、宴もたけなわになってさて寝るか、となった直前に、師匠は、Cabin Depressurisationした時の話、をしたのだった。

師匠「キャビン減圧しているってどうやってわかる?」

私「Cabin Pressureの警告灯がつきます。あとは、空気が漏れている音とか気圧の変化で耳が痛くなるとか」

師「そうだ、あの時も警告灯がついた、で、その次のアクションは?」

私「Rapid Depressurisation のメモリーアイテムです。」

メモリーアイテムとは、緊急事態時にパイロットがやるべき一連のアクションで、パイロットはこれを記憶(メモリー)して、いつでも正確にできなければならない。その後、QRHと呼ばれる本を開いて、その本を見ながら一つ一つスイッチを操作していく。メモリーアイテムは、急減圧やエンジン故障など、急を要する事象にQRH以前の最初の対策として設定される。現代の飛行機は二人乗りなので、この場合一人はPF(パイロットフライング)として飛行機を「飛ばす」事を担当し、もう一人はPM(パイロットモニタリング)として「事象の対策」を担当する。PFは飛行機を飛ばしつつ、PMに「Rapid Depressurization Memory Item」とオーダーすると、PMがあらかじめ頭に叩き込んである急減圧に対するメモリーアイテムを実施するのだ。

師「急減圧のメモリーアイテムなんだっけ」

私「Oxigen Mask On, 100%, Mike Switch Mask, Establish crew communication, "Attention Attention, This is the captain, Emergency Descent", Condition Lever max, Power lever Flight Idle, Airspeed, Vmoです。 」

師「そう、シムではそう習う。で、俺のFOもそれやろうとしたんだけど、、、」

私「まさか、急減圧でメモリーやらないなんてことは、、、」

師「やらなかった。」

***

note.muに続く

     2018.08.29 Wednesday
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先日の記事で書いたタイプレーティング(飛行機の操縦資格)を無事終えて、いよいよライントレーニング、飛行機のOJTが始まった。

これからおよそ1ヶ月間、数にして100セクター(100便)、実際の運航を学ぶ。操縦資格をとったとは言え、私のような、右も左もわからないペーペーのFO(ファーストオフィサー)と飛ぶにはそれなりの経験を持ったキャプテンでなくてはならない。実際に、そういう資格を持った「トレーニングキャプテン」と飛ぶことになる。100セクターが終わった後に、審査があり、彼ら以外のキャプテンと飛んでも安全を損なうことがないと認められると、晴れて一人前のファーストオフィサーとしてスタートラインに立つことになるのだ。

シミュレータのタイプレーティングトレーニングも大変だったが、ライントレーニングはまた違った大変さがある。まず、ディストラクション(横槍)の多さが違う。キャプテンとのブリーフィングの途中にATC(管制)から質問が入ったり、お客さんや荷物の積み込みが遅れたり、FMSと呼ばれるコンピュータに到着経路をプログラムしてさぁ、降下だ、というところで滑走路の向きが変わって全部打ち直しになったり。。。とにかく邪魔が入って計画通りに物事が進まない。着陸後、車椅子が必要なお客さんがいるので、目的地が近づいてきたら無線で会社のオペレーションにあらかじめ用意してもらうよう伝える、なんてこともあった。

タイプレーティングの時は、操縦資格の取得が目的だったから、車椅子のお客さんはいないし、管制官は空気を読むし、滑走路や到着経路はその日の課題としてあらかじめ決まっているので、変更するということはなかったわけだ。

ところが、実戦では、タイプレーティングで言われた通り、習った通りの順番で仕事をやろうとすると、上記のような邪魔が入ることで、中断ややり直しが多くなる。車椅子のような実戦ならではの作業は、そもそもそんなことをするなんて知らないので、作業そのものがおっかなびっくりである。結果、時間のロスが多くなる。時間をロスすると、定時出発・到着に影響が出てきて焦燥感が生まれる。焦るとミスが増え、さらに時間をロスする。スパイラルだ。これはしっかりとミティゲート(対策)されないと安全運航に支障をきたしてしまう。それでも、数本飛ぶと、色々と見えて来る。ミスをしながら、でも、それを致命的なミスにしないように管理しながら、ミスから学び、ひとつひとつ習熟していく。それにしても、最初の数日間は、ものすごいラーニングカーブだった。トレーニングキャプテンは大変だこりゃ。
     2018.08.22 Wednesday
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エアラインパイロットの訓練は、主にシミュレータ(シム)と呼ばれる巨大な箱の中で行われる。ニュージーランドでは、実機を飛ばさなくても先回書いた「タイプレーティング」つまり操縦資格が取れてしまう。日本の場合は、、、知らない。

DHC-8は、二人で操縦する飛行機だから、訓練も二人ひと組になる。私のバディは、前職の同僚インストラクターのクリスくんだ。20代前半の前途有望な金髪小僧である。

で、こいつの頭の回転がまー早い。

予習なんかしなくても、その場で、直前に言われたプロシージャやセリフがちゃんと飛行機を飛ばしながら出てくる。頭の中に余分なスペースがたくさんあって、計算なんかもしっかりできる。

タイプレーティングの訓練は、操縦そのもの練習は最初の1回しかない。あとは全て「フライトのマネジメント」が訓練の主眼になってくる。あるタイミングまでに必要なタスクを全て完了して、飛行機を着陸態勢にするには、その一つ手前のこの段階でこの仕事を終えて、そのさらに前のここではこれを確認して、そのまた前には、、、とゴールから逆算してタスクを抜け漏れなく完了しなければならない。抜け漏れなくやるには、プロシージャといって毎回毎回決まったやり方と順序と言葉を使って、誰と、いつ飛んでも、同じやり方ができなければならない。

ところが、これを速度や高度を管理しながら、つまり、飛行機を「飛ばしながら」やるのは大変な負荷のかかる知的作業で、慣れないと難しい。皿回しをしながら決まった時間内に料理をするようなものだ。少なくとも、皿回しをルンルンでできなければそんな芸当はできないし、ルンルンでも、あらかじめどんな手順で料理をするのかを予習しなければ、時間がかかりすぎてしまう。どっちが欠けてもダメなのだが、クリスはその両方に長けていた。

私の場合は、良くも悪くも普通のパイロットなので、ミスもするし、抜け漏れはあるし、操縦は荒れるしで情けない思いをすることになる。英語のハンデもある。ただし、ミスから学べばいいので、別段落ち込むことでもないのだが、私の悪い癖は、人と比較をされて自分の評価が低い場合、それに引きずられてしまってさらにパフォーマンスがスパイラル状に悪くなることがある、ということだ。これはいかん。人と比較がない場合でも、たとえば自分の過去のダメなパフォーマンスを思い出してそれに引きずられることも同根だと考える。いわゆる、本番に弱い、結果が出ない人。orz

で、今回それを克服する糸口が見えたので、書いておきたい。自分が本番に弱い、と自覚する人には、もしかしたらヒントになるかもしれない。

思えば、インストラクターになった時からその気が出てきたように思う。それまでは、人並みに緊張こそすれ、本番に弱いというような感覚はあまりなかった。インストラクターになってから、フライトテストやチェックを「恐れる」ようになった。ダメだとは思っていても、どうしてもビビる自分がいて、どうして自分はこんなにしょぼいんだと嫌になることもあった。

今回シムをやっていて、10回の訓練のうち、最初の4回目くらいまでは、順調だった。最初は離陸のコールアウトや、どのスイッチをどの手順で操作するというような比較的単純なテーマだった。滞在先のホテルのロビーでクリスとソファーに腰掛け、A1大の紙に印刷したコクピット「紙レータ」で(英語ではCockpit Tigerと言っていた。なぜタイガーなのかはわからない)まるで雨乞いをするシャーマンのようにプロシージャの練習を共にしていたものだ。

ところが、訓練が進み、フライトのマネジメントがその主眼になってくると、自分とクリスの学習速度と習熟度の差が明らかになってくるにつれ、自分のパフォーマンスが相乗的に悪くなっているのが確認できた。言い訳をすれば、英語ってのがやっぱりでかいかもしれない。特に、数字はやばい。

たとえば「半径12マイルの円弧上を1マイル進む時にの角度が5度だ、この円弧に入ってからインバウンドまでだいたい60度進むとしたら、インバウンドに到達するまで飛行機は円弧上を何マイル進む?」って日本語で言われれば「5度で1マイルなら60度なら12マイルか」とすぐできるけど、英語で言われると、処理がhi-hoのダイヤルアップ回線かっていうくらい遅くなる。

とにかく、私が遅れ出すとクリスにも迷惑がかかる。シムの後の日程まですで決まっているので、レッスンやり直しなんてことになったらその後のライン訓練にまで影響が出てしまう。でも、ここでふと疑問に思った。習熟度の速度が違うだけなら、遅くても進歩はしているはずなのに、今までしなかったようなミスをしたり、頭の思考速度が極端に落ちたりすることがあるのは何故なんだと(スケジュール上、8時から夜中の12時というシフトで頭がぼーっとしがちなのもあるが、それはクリスも一緒なはずだ)。

で、気づいた。あれ、俺、単純に今ここに集中していないじゃないか、と。

note.muに続く
     2018.08.06 Monday
私の飛行機は、DHC-8という。そう、あの細長い胴体に、海軍機のようなガニ股の脚が最高にセクシーな彼女である。プロペラがついているが、私が今まで教官で飛んでいたセスナのような飛行機とは質的に異なるものがたくさんついていて、先日その彼女の操縦資格「タイプレーティング」の訓練を無事終了した。

飛行機というのは、小さいセスナから大きなエアバスまで、操縦の原則は変わらないが、機種によって操作の順序や飛行の特性は異なる。車ならBMWとカローラで別々の資格が必要ということはないが、飛行機では基本的に機種別に操縦資格を取得する必要がある。(国によっては軽飛行機は一律にしているところもある。)その資格は、大元の「免許」(ライセンス)に「限定資格」(タイプレーティング)として付与される。エアラインに入って最初の仕事は、運航する飛行機のタイプレーティングを取得することで、そのトレーニングと試験が終わったのだ。

質的に異なる、ということは、パイロットとしては大きなジャンプになるわけだ。具体的には、
・レシプロエンジンからガスタービンエンジンになったこと
・与圧キャビンになったこと
・2PILOTによる操縦になったこと

が大きい。推進力をプロペラで得ているだけで、エンジン内部の仕組みはいわゆる「ジェットエンジン」と変わりはない。国内線など、あまり速く飛ぶ必要がない比較的近距離の輸送では、プロペラによる推進の方が噴流による推進より効率が良いので、適材適所として「ジェットエンジン」の一番前にプロペラをくっつけるのだ。これを「ターボプロップ」と呼ぶ。速度を追求しない分、離着陸距離が短くなることも見逃せない。日本でも離島や地方の空港で「ジェット機」が離着陸できないようなところに交通の便を提供している。燃費のいいターボプロップは、地方に空の便を提供し、会社に利益をもたらす重要なプレイヤーだ。

上記の3つの特徴を持つ飛行機の経験は、多くの場合そもそもエアラインパイロットとして職を得るために必要となる経験であるにも関わらず、得てしてエアラインでしかそういう飛行機は運航していないという矛盾に、小型機のパイロットは苦しめられるのである。パイロットの需要が増えた時に、上記の経験を持っていないパイロットの募集がかかることがあったり、エアラインでないが上記の要件を満たす中型の飛行機を運航する会社(例えばメディカルパイロットなど)のパイロットがエアラインにステップアップした結果、小型機のパイロットが中型機に上がる、というようにして、ところてんが押し出されるようにゆっくりゆっくりとキャリアをのぼっていく。出口が閉まれば、ところてんは押出器の中でストップする。いつその扉が開くかは、中のところてんにはわからない。そういう状態でモチベーションを発揮するのは、よっぽど自分の味に自信があるところてんにしかできないだろう。人生を無駄にしているような感覚を持ちながら悶々と扉が開くのを今か今かと待つのが、海外のパイロットのキャリアの積み方の鉄板である。

翻って今は、空前のパイロット不足である。ところてんの扉が蝶番ごと吹き飛んでしまって、ところてんに味がしみる前にだだ流しになってしまっている状況だ。実際、私も中型機の経験を経ずしてダイレクトにエアラインの募集が来た。扉が開くと、その勢いはものすごく、私は教官をしながら5年近く待ったが、今では教官になって1年の連中がインタビューに呼ばれている。ところてんの供給元としてはたまったものではない。学校では教官が不足し、近く立ちいかなくなるだろう。それは、吸い上げ先のエアラインが種もみを食いつぶしているようなもので決して健全な状態とは言えないが、構造的な問題で、今のところ解決策はない。



*編集の容易さから、note.muに移行します。しばらくはブログと同時投稿にしてみます。

     2018.05.04 Friday
みなさんこんにちは。1年半近くほったらかしていて今更ですが、ひっそりと書いてみたいと思います。コメントをほったらかしにしていてすみません。

先日、某エアラインのパイロット採用試験があり、無事に合格することができた。5年近くニュージーランドでインストラクターとしてやって来て、数えきれない困難に直面し、何度もパイロットを諦めるしかないのか自問自答を繰り返して来た。なんとかこの先も飛び職として次のステップに進めること、何より自分の大切な家族、友人たちにいい報告ができたことが非常に嬉しく、誇らしく感じている。

一つ前の記事にある試験は別の航空会社を受けた時のもので、つまり、その結果はダメだったわけだが、結果を聞いた次の瞬間からファーストエイド講習を予約したり、ATPLと呼ばれる定期便の機長に必要ライセンスの学科試験(7科目で試験1回2万円くらいする。)を完了したり、ICAOの航空英語証明でLevel 6をとったりと、雑草魂を拠り所にしてゴールの見えないマラソンを続けて来た。「ゴールの見えないマラソン」などと言う美しい表現は、結果が出ているからできるのであって、「マラソン」の只中にあってはそんなことは恐ろしくてとても口にできない。

実際、2回目のエアライン挑戦である今回(本格的な選考に進めなかったところを含めると10回は下らないが、、)の結果を知らせる電話が午後の3時半過ぎに鳴るその瞬間まで「ここまでやっても結果が出ないなら、これ以上モチベーションを維持するのはもう無理かも知れない」と雑草魂が根を上げはじめていた。結果発表はこの日、と確実に知らされていたので、その日は朝からずっと携帯電話を握りしめていた。午前中に鳴らなかった時点で、考えないようにしていたシナリオが徐々に現実として感じられるようになって来た。

「朝から電話で知らせているなら、午前中に鳴っているはずだ。まだ鳴らないとことは、不合格として選り分けられた方に入ってしまったと言うことなんだろう。」

そういう想像が徐々に現実味を増してくるのを感じるのは、恐ろしかった。落ちたって、死ぬわけじゃない。もう一度頑張ればいい、と言うけれど、その後の人生が一つの小さなミスで台無しになるプレッシャーを感じながらシミュレーターや面接に臨むエアラインの試験というのは、精神的に本当に疲弊するのだ。当日はもちろん、準備期間や選考結果を待つ間も、精神的に追い込まれてクタクタになる。徹底的に自分に向き合い、それを人にわかる形で説明し、いいところも悪いところも全て直視してベストを尽くして尽くして尽くし切っても、たった一つのミスで簡単に落ちてしまう。

加えて、現在の仕事で行き詰まっていたことも雑草魂を捻り潰すのに十分な重さを持っていた。このブログの更新頻度が少なくなったのも、正直そこに原因があった。自分の成長や飛行士としての純粋な興味、探究心を表現する意欲が、仕事がうまくいかないことでほとんど萎えてしまった。気がつけば、死んだ魚のような顔で毎日職場に憂鬱な気持ちで出かけるサラリーマンになってしまっていた。いかにも弱っちいが、それが事実だ。


ところが、蓋を開けてみれば今まで自分がしてきた経験の全てが、良し悪しを問わず今回の合格を下支えする要因になったのだった。


1回目の反省から、ジェット旅客機のコクピットを忠実に再現したパソコンのシミュレータではなく、OSがWindows 98でフロッピーディスクが付いているパソコンで動く学校のシミュレーターを時間外に利用して練習をした。パソコンではコクピットの表示は再現されているが、画面が小さいのでスキャニングの練習ができないし、目と手の動きの連動の練習にならない。大事なのは試験での雰囲気、シナリオを再現すること、その上でパフォーマンスを発揮する練習をすることだった。IFRのインストラクターになったことも、計器飛行に習熟するのに非常に役に立った。前述の通り、ATPLを全て終わらせて知識を強化し、当日のテクニカル試験の高評価に繋げた。

また、今回は多くの人に協力を求めた。先に同じエアラインに合格した同期に試験内容をシムで再現してもらい、私の師匠のそのまた師匠にはILSを見てもらった。面接に向けて有料のコンサルティングを受け、友人の美容師に気合いの入った頭にしてもらい、これまた友人の按摩師に体を整えてもらった。妻と一緒にかっちょいいネクタイを選び、試験会場の近くに滞在したB&Bのホストにあたたかいもてなしを受け、U-barの運転手にパイロットになるための試験を受けてるんだと話かけた。日本にいる家族を思い、友人を思い、それら全ての人たちに良い報告をしたいとその一心で試験に参加した。

2日間に渡った試験当日では、合間合間で他の参加者たちと、いかに自分のシムの出来が悪かったか、などと自虐的な話で大笑いし、ユーモアのストレスに対する効能に改めて気づいた。うまくできたはずだ、いや、でもあんなところでミスをした、いやいや、それでも全体的にはうまくまとめた、と思考は巡る。評価基準がわからないのでどうしようもない。それでも引きつった笑いでなんとか精神を保って、試験を終え、帰りの飛行機に乗りこんだ。離陸滑走に入った飛行機から、今回受けた会社の飛行機の尾翼が見える。俺は、あそこにいけるのか、それともついに届かないのか。

合格発表の日、鳴らない電話を握りしめて不安げにうろうろしている私をみて、声をかけづらいのか、同僚もあまり近寄ってこない。昼をすぎた時点で前述のように半ば諦めていたのと、良い知らせを入れてあげられていないので、人一倍心配症の妻のメンタルが保つかも心配だった。ため息が80回ほどついて出たころ、見覚えのある担当者の名前が、振動する私のiPhoneの画面に浮かび上がった。何が起きてもへのへのカッパだと口に出してから電話に出ると、開口一番 Good News for you! と言われてその瞬間に地球の自転速度が上がったような気がした。担当者の彼女になんどもお礼を言って(決めたのは彼女ではないので適切かはわからないが、とにかくそうするしかなかった)電話を切り、素早く画面をタップして、妻が出た瞬間にパスパスパスパスとトップ下にボールを要求するフォワードのような口調で合格を伝えた。妻は泣いて喜んでくれた。半ば諦めていたので、信じられない思いだった。

実感が湧いてきたのは家に帰ってお祝いの外食をしている時だった。ニコニコしている妻の顔を見て、本当に諦めないでよかったと思った。師匠には「最初の仕事も大変だけど、エアラインへのジャンプも同じくらい大変だ」と言われたことがあったが、本当に大変だった。この5年間自分の弱点を指摘され続け、常に自信を挫かれる環境にいたが、自信を取り戻した気分だった。

これは間違いなく、大きなジャンプだ。だが、ここからが勝負だ、油断は禁物。これまで通り、足元を見定めていこう。




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プロフィール
2010パイロット訓練 2013インストラクター 2018エアライン(訓練中) 命を削って、キャリアを掴む。
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