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     2023.10.29 Sunday

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     2011.08.28 Sunday
先日、ある友人からこんな相談を受けた。

「就活って、なにすればいいの??」

友人は日本人だがNZに来て10年がたつ。こちらの大学に通っていて、博士号を目指している。でも、日本で就職もしてみたいと言う。その話をしていて出てきた質問だった。日本で就職するには、就職活動、いや、就活、いやむしろ「シューカツ」をしなければならないからだ。私も数年前にした。それにより内定した会社で働いていたわけだが、在職中に航空会社の自社養成試験を受けた。これも基本的にはシューカツのフォーマットにのっとって行われた。そんな私からのアドバイスはこうだ。


「みんなと同じ黒い服を着て、お辞儀の角度やドアのノック回数で迷ったりするのがシューカツだよ。」


D1900!!

半分冗談めかして言ったが、私はシューカツ、ひいては新卒一括採用という制度に批判的だ。だから、実際に経験した身として、この友人の質問に対して真摯な態度を取ると、どうしてもシューカツを卑下した態度を取らざるを得ない。

もちろん、今がんばって就職活動をされている方を馬鹿にしているわけではない、逆だ。そういう人たちが真剣に自分のやりたいことを考えたり、バックグラウンドが違う年齢層の面接官に必死に何かを伝えようとして表現を工夫していることは、それが見た目にどんなに滑稽でも、絶対に馬鹿にしたりはできない。私が批判しているのは、そういう後出しじゃんけんみたいな状況をつくりだすシステムそのものだ。景気の動向と統計に翻弄されて、しまいには最終面接で人格を否定される人たちは、数年前の自分である。誰が馬鹿にしたりできようか。


PARTNAVIA!!

私がシューカツの果てに入った会社は、大学の学部や専攻にある程度工学系への偏重はあったものの、大学で学んだことを仕事に活かしてもらおうという風土は皆無だった。むしろ、大学ではこうでした、という文脈はタブーでさえあった。現場には現場のやり方がある、頭でっかちはいらん。空気を読んで、周りの人たちとうまくやっていくことが最も重要だと。(私の会社だけ??笑)

新卒採用が好まれる理由はここだ。会社は、新しく入ってくる人たちが今いる社員の共同体にうまくなじむことを最重要視している。大学でどんな勉強をしてきたかなんて、どうでもいい。とにかく、みんなとうまくやってくれと。それをよくシューカツでは「コミュニケーション力」と呼んでいたように思う。私はこの言葉も嫌いでよく馬鹿にしていた。こみゅにけーしょんか。基本的には「何も知りません、教えてください」という姿勢が重要で、低い物腰と遠慮がちな態度と、先輩を立てる器量がある人。そういう人は、シューカツでピンクのスーツを着たりはしない。ピンクのスーツを着ろといっているわけではない。少なくとも、そういう突拍子もないことはしないということだ。


KINGAIR!!

どんな大企業でも、中小企業でも、新卒採用をやっているところは基本的にそういう無難な人を求めている。求めている、と言う意識は当事者にはないかもしれないが、結果としてそういうメッセージを送っている。そういうことに気づいていない。無難な人が悪いわけではない。でも、少なくともアウトローを認めていない。私のように、大学を辞めて学校を変えたりいろいろいろいろやってきたような人間には、新卒採用に象徴される日本社会の不文律は、いちいちプレッシャーなのだ。(私はもう新卒というカテゴリーには当てはまらないけど。念為。)でも、私の同期も含め、やりたいことをやっている人というのは結構たくさんいる。よかった、変なおじさんは私だけではなかった。


自分の欲望に忠実に生きたら、あれこれ迷って紆余曲折があって然るべきだ。


新卒採用をしている会社は、新卒採用をしていることによって、その紆余曲折を認めていない、あるいは、紆余曲折はないほうがいい、というメッセージを送っている。高校を卒業したら浪人(示唆的な言葉だ)せずに大学に入ってほしいし、大学を卒業したらすぐにどこかの会社に就職してほしい。さらに言うと、勉強ばかりしていてはだめで、アルバイトでもして適当に社会経験も積んでおいてほしい、、、うーん、やりたいことが見つかってその勉強を一生懸命やっている人はダメなのか。会社を辞めてパイロットになる訓練をするなんていのは、紆余曲折に入るんだろうか。NZで10年勉強して、博士号とって日本の会社に就職するのも、紆余曲折なんだろうか。


エンジン故障!エンジン故障!

うーん、こんなに楽しいのになぁ。笑
     2011.08.26 Friday
さて、順調に(?)IFRの訓練を進めているわけですが。

昨日今日と初めてエンジンが2個ついた双発機に乗った。例によっていろいろ小難しいことを考えながら飛んでいるわけですが、とりあえず面白い動画が取れたので今日はそれを紹介して記事にしてしまおうと思う。なんせやることがたくさんあるので。。。

一つ目は、久々のNEW BRIGHTON GAA。双発機の60度バンクターン。双発はとにかくでかくて重いので、操縦桿が重い!!片手でやれ、と言われて支えきれずに落ちていくTAKA。笑 (まぁ私もなんだけど。)でも、降りてきた後、同期のKIWI(かなりでかいやつですが)と話をしていたら、「NO ONE CAN MAKE THAT TURN WITH ONE HAND」って言っていたんだけどな。。。





二つ目は、ABORT TAKE OFF。離陸中止訓練。クライストチャーチ国際空港のRWY02を占領して、普段はいかない滑走路端から離陸滑走を開始、離陸直後に途中で片側エンジンが壊れたため、離陸中止を判断してエンジンシャットダウン、滑空して滑走路に降りるという想定。



通常は浮いてしまったらそのまま飛び続けるのだが(そのためにエンジンが2個ついている)RWYに余裕があることがわかっていれば、そのまま生きているほうのエンジンも切って滑空しながら着陸してしまったほうがいい場合もある。

この訓練の前には、まだ飛行機が浮いていない状態で同じことが起こって、飛ぶことなしに離陸を中止する訓練も行った。国際空港の真ん中でこんな邪魔な動きをしているイタリア製の飛行機に乗った日本人。世界にはいろいろな人がいますね。

このサイズの双発機は「世界で最も危険な乗り物」だという。エンジンが2個ついているということは、ポテンシャルとしては確かに単発機より高いのだが、それを操作する人間、つまりパイロットに迷いを生じさせる余地がある。ポテンシャルをうまく引き出せなかったり、間違った操作をすると、あっという間にスピンに入ってしまう。プロペラが出す力の中心が、機軸上にないためだ。また、下手に飛び続けようとして事故になるケースが多いという。単発機では迷うことのない状況で、選択肢が増えるために迷いが生じるのだそうだ。HUMAN FACTOR。

精進しまっす。




     2011.08.17 Wednesday
当校では、初等教育を重視しています。

飛行機の訓練は、最初が肝心です。

後になって変な癖がつかないように!!


・・・民間の飛行学校の広告で、よく見るうたい文句である。


初等教育は重要だし、変な癖をつけないことは肝心なのだが、私が訓練学校を選んでいたときに再三目にしたこの科白は、しかし、私を混乱させた。「初等教育が重要じゃない」という意見が間違っていることはわかる。でも、どういう訓練がダメな初等教育で、どういう訓練がよいのか、変な癖とは何なのか、どこの学校の教官も、私の腑に落ちる説明をしてくれなかったからだ。


今日は、この点について150時間飛んだ自分の視点から、説明してみたいと思う。


さて、このアイディアを象徴するような文章が、日本の航空大学校のHPに載っていた。以下に引用する。

「三つ子の魂百までの喩えのとおり、操縦訓練の初期段階(中略)からこの安全運航に対するプロフェッショナル・スピリットをしっかりと身につけなければならないと考えています。」

航空大学HP 航空大学校について 使命・理念の背景 より引用

「プロフェッショナル・スピリット」を身に着けるにあたり、重要なのが「質の高い」「適切な」初等教育というわけだ。大多数の民間飛行学校も、同じようなことをうたっている。私の学校もそうだし、教官もそう言っている。

訓練校を選んでいた当時の私はこれをきいて、

「日本人が日本のラインで働くことを念頭にやる訓練と言うのは、アメリカ人やkiwiがやる訓練と初めから(だって初等教育から違うんでしょ)コンセプトが違って、なんだかよくわからないが『質の高い』訓練をするらしい。。。」

そんな風に思っていた。MADE IN JAPANはすげーんだと。

そうやって鼻息荒く Effect of controlという最初の科目に臨んだのだが、これがまったくの見当違い。なにがなんだかよくわからず、むしろkiwiのほうがさっさとこつをつかんで訓練が進んでいる。どうなっているんだ、日本人の飛ばし方は、世界一正確で、ビシッと飛ばせるはずじゃなかったのか。「より適切な」初等教育を受けているのにもかかわらず、「普通の」初等教育を受けているkiwiより遅れている、ということはつまり、私が個人的に訓練についていけていないと、そういうことではないのか。驚いたことに、私は、訓練の最初からいきなりスランプになったのだ。


150時間飛んだ今から思うと、ちゃんちゃらおかしい。


いいですか。(過去の私に向け 笑)


初等教育、というのは、PPLの最初のほうだけではない。私は、今だって初等教育の真っ只中にいる。これから進んでいく大型の飛行機に比べたら、蚊みたいな速度と格好をしたトマホークで、やっとXCの目処がついたところだし、IFRだって決められたことをやるだけで精一杯だ。三つ子の魂を語るなら、私はまだ1.5歳くらいであり、赤熱した鉄である。

私達は、これから生涯にわたってテスト・チェックを繰り返していく。この「試験」に受かるためには、練習が必要だ。それを訓練と呼ぶわけだが、ここに落とし穴があると感じている。どういうことかというと、訓練を練習だけにとどめてはいけない、ということだ。

試験に受かるための訓練が、易しいというわけではない。試験というのは、日本だろうがアメリカだろうがNZだろうが、骨が折れる。完遂するには、反復練習しか方法がない。逆を言えば、試験に受かりたいなら、決められた手順をひたすら反復練習すればいい。


たとえば、机に紙を置いて「こんにちは」と正確に紙面に書く、というテストがあったとしよう。つまり、紙とペンが2段目引出しに入っていることを頭に入れて、2段目の引き出しをあけて、紙を机上に置き、右手でペンを持って、左手で紙を押さえて、「こんにちは」と書き、それがちゃんと「こんにちは」と読めれば合格。「質の悪い訓練」というのは、この一連の動作をひたすら反復して誰よりも正確に、早く、動作を完了できるようにする、そういう練習に偏ることだ。そのうち脳みそすら使わず、脊髄反射だけで手が動くようになるかもしれない。


でも、もしペンのインクが切れていたらどうしよう?

紙が破れていたら?

漢字で書けという指定があったら?

紙が黒でペンも黒で書いても字が見えなかったら?

間違えて「こんにちわ」と書いてしまったら?

書いている途中に蚊が腕にとまったら?

居眠りして紙の上に涎がたれてしまったら?

・・・


つまり「判断」を要する場面に出くわしたら、どうするか。どこの引き出しに何が入っているのか、引き出しの位置は全部覚えているか、いやまて、引出しの中に、物を入れた記憶が、そもそもあるのか。いつもいつも2段目に白い紙と黒いペンが入っていると考えて、そればっか練習していたら、それはそれは薄っぺらなパイロットになってしまうことだろう。それでも試験には多分、合格できるだろうけれど。

だからと言って、作業を練習することが必要ないといっているのでは、もちろんない。作業(PROCEDURE)と判断(DECISION MAKING)は両輪だ。作業は、すべての内容を網羅した一覧表を作り、それを上から順に繰り返し練習する。膨大な量だが、練習自体は決められたことを繰り返すだけなので単純で、やればやるほどうまくなる。だが、判断の練習と言うのはケーススタディを個別に研究するしか方法がなく、しかもそこで得た判断の材料は、いつ使うかわからない。引退するまで引出しの中から出さないかもしれない。結果が見えづらい。さらに悪いことに、これをやらなくても作業のほうを練習していれば「サボっている」という感覚がないので、一生懸命やる人ほど、応用が利かない反復練習に明け暮れる。

質の高い、適切な、初頭訓練と言うのは、膨大な作業を効率よく(本当は効率よく、なんてのはない。サボらないでやるだけだ。)運動神経にしみこませ、人や自分の経験を、時に(試験のためには)無駄ともとれるような範囲に及んで研究し、引き出しにスペアインクやセロハンテープや辞書や42色のクレヨンや修正液や虫除けスプレーやハンカチを忍ばせておくこと。そういう訓練のことを言うのではないだろうか。

判断のための研究に必要なことは、まずはそれが大事だと学生自身が気づくこと、自分の教官が四次元ポケットを持っていること。そして、教官自身も出てくる道具のメンテを怠らないこと。もらった道具が壊れていたら、意味がないからだ。

自分も間違えることもある、と考えている教官は、経験の上にあぐらをかいている教官よりパイロットとして誠実だ。私の学校の教官(日本人もKIWIも)は、皆そのバランスがよく取れている。生徒に不安は絶対に見せないが、同時に発展途上の自分を認めている。わからないことは、こちらを真っ向から見返して「わからない」とはっきり言い放ってくれる。笑 それとて、間違えたことを教えられるより数倍いい。教官達のそういう姿勢は、学生にも伝播し、ここに「適切な」初等教育が完成する。

私が今、こうやって自分の訓練を振り返ってよかったこと、よくなかったことを仕分けして、アイディアを更新していること、つまり、この文章を書いていることそのものが、「適切な」訓練を受けている証左になるとおもうのだが、どうだろう。
     2011.08.14 Sunday
先日、コメント欄にいただいた質問で、こんなものがあった。

「正直日本の航空業界は厳しいのかな・・と薄々感じております。また、航大も先日の地震の影響で採用の枠も減り、全てがマイナスに向かっているのではないかと思います。」

彼は大学三年生だという。おそらく、日本でパイロットになりたいと感じている人は、皆同じように感じているのではないだろうか。すでにこのジェットコースターのような業界に足を踏み入れてしまった、、、いや、自分の意思で入っていった(笑)私がどう考えているか、意見を求められたので、コメント欄に返信した。書いているうちになかなかの量になったので、一部を推敲して以下に載せてみたい。日本と海外でパイロットになると言うことがどういうことなのか、多少なりとも具体的な映像が浮かんできたら幸いだ。



はじめまして、コメントありがとうございます。

そうですね、この業界は景気の影響をもろに受けるので、悪い時は華厳の滝みたいにすべてが悪い方向に行きますね。笑

大学三年生でいらっしゃるなら、まずは自社養成を受けてはいかがでしょう、おそらくそれが日本でパイロットになるために、リスクが最も少ない方法だと思います。このリスクとは、金銭的に破綻する不確実性と言う意味です。平たく言えば、借金をして、払えなくなると言う状況が起こらないということですね。私のように自費で取るには、経済的な戦略が必要です。日本でパイロットになるための免許を取るには、1000万円以上の金額が必要です。ですから、まずは自社養成を受ける。そして、だめだったらできるだけ給料のいい会社に就職(これだって十分難しいことでしょうが)して、お金をためる。目標は1000万円!!というのがアドバイスになります。

自社養成試験に最終試験で落ちて、年齢的にも待ったなしになった私は、自費で免許を取得し、日本、あるいは海外でパイロットになるという手を考えました。私が海外で訓練をしている理由のひとつは、まず日本でパイロットになることを考えたとき、日本ですべての免許を取るよりも、こちらでとってそれを書き換える、と言う方法のほうが安いからです。(それがすべてではもちろんありませんが。)また、海外でパイロットになるという手もあるなと当時は軽く考えていました。オプションを2つ持って、こちらで訓練を始めました。

今は日本で飛ぶことに決めて訓練をしています。そう考えるにあたった経緯を説明してみますね。

日本人がエアラインパイロットになるのに最も適した国は、もちろん日本国です。でも、日本で訓練を受けると信じられないほどのお金がかかるので、「それは無理かもしれないから」海外に活路を見出そう、そう考えていました。


ところがこれはとんでもない勘違いでした。


海外で日本人がパイロットになるには、当然合法的に働くためにビザを取得しなければなりませんが、これが一般的に最も難しい問題です。就労ビザは、働く先の会社が国に申請して出してもらいますが、その国の国民で「私パイロットです」と言う人がうじゃうじゃいるのに、わざわざビザを出して日本人を雇うところなんて天文学的な確率で、ありません。

また、パイロットになるシステムも異なります。日本には「若い人が小型機で経験(仕事として)を積む」という環境がほとんどないため、航空会社が自前でパイロットを育てています。それが自社養成ですが、たとえばNZでは、20台前半の教官がゴロゴロいて、ライセンスを取った後に最初は小型機の教官などを数年続け、だいたい1000〜1500時間以上のフライトタイムを持った状態で航空会社に応募します。(日本では、自社養成以外のソース、つまり私のような自費で訓練した人間が航空会社に応募する時点でのフライトタイムは、おそらく500時間に満たないと思います。)

NZでは、プロパイロットとして経験を積んだ人間しかエアラインにはいけない仕組みになっているので、エアラインパイロットになるには10年単位で計画を立てる必要があります。その10年の間は、遊覧飛行や飛行学校の教官などをしますが、そういう仕事は、CPL取立ての人には公募と言う形で出ていることは稀です。

矛盾するように見えますが、海外ではエアラインに行くために必要な飛行経験(フライトタイム)をためるために必要な、「最初の仕事」を得るのが、最も難しいことだと感じます。公募されていないからです。コネや顔見知りの恩でテストを受けさせてもらい、認められれば仕事がもらえます。さらにいうと、その時点での時給はマックでバイトするより低いです。

たとえばうちの学校で最初に教官になったら、生活費は給料からではなく、貯金か、バイトの掛け持ちをしてまかなう必要があります。それでもエアラインに行くために、フライトタイムがほしい!!!と言う人は、がんばってバイトしながら教官をしていますし、現在うちの受け付けの仕事をして我々のフライトの管理をしてくれている女性は、ここの卒業生で、教官として雇ってもらうために丁稚仕事を自ら名乗り出て、順番が来るのを待っています。(その点で、うちの学校が最近企画した「教官インターン制度」は、お金を出してフライトタイムを買うかわりに「最初の仕事」をつかむときの不確実性をある程度排除したという点でユニークだと感じます。それでも絶対になれる、とは限らないし、給料は低いし、いばらの道であることは違いありませんが。)

実際に、教官という仕事は本当に楽しそうで、きつそうで、やりがいがありそうですし、NZに住んでいるとお金に対する価値観が270度くらい変わるので、エアラインでがっつり稼ぐのは年行ってからでもいいなぁ、という考えの人もいます。

私の考えていた「海外でパイロットになろうという戦略」の、その動機が浅はかだったというのは、海外でパイロットになることが、日本の学校に1000万円払ってパイロットに応募するより負荷が小さいと感じていたからです。もっとわかりやすく言えば、1000万円という数字にビビって、その時点で情報が少なかった「海外でパイロット」という言葉に飛びついただけでした。逆でした。お金で解決できるという点で考えれば、相対的に日本のほうが確率は高いといえます。

だからといって日本でパイロットになれるかどうかは、おっしゃるとおり希望のない状態です。海外でなることの難しさからみて、相対的に確率は高くても、絶対的な確率は依然として低い。これはそのとおりです。私にとっても同じですが、私はこの希望が見えないときに周囲を説得して訓練を始めました。理由は、募集がきたら仕事がつかめるように、いいパイロットになっておく。それを自分の責任でやるしか、自分の夢に応じる方法がないからです。私にとっては、パイロットになって働くこと、が最優先事項なので、状況がどうあれ、それを実現できるように動いた、それだけです。

私の先輩も最近では二人、ANA WINGSとスカイマークに内定したと聞きました。好況時ではなく、不況時の日本で欲しがられるパイロットを輩出した教育現場で、今私は訓練しています。教育のソースはあるわけです。これで内定が取れなければ、それは不況のせいではなく、私がそれまでの人間だったと言うことになります。それを想像することは本当に恐ろしいことですが、日々の訓練でその不安をひとつひとつ潰していくしかありません。

夢が崩れる瞬間を想像して、それでも前に進む勇気があるか、ここが分かれ道だと思います。とりあえず、お金をためておくことに越したことはありません。笑
     2011.08.12 Friday
Scottが持っているテストの採点表は、小学校の頃の通信簿みたいに「がんばろう」「できた」「よくできた」という3項目があって、評価ポイントにしたがってチェックを入れることになる。「がんばろう」がひとつでもついたら、フェイルだ。

Tick in the right box は、直訳すれば「チェックが正しいチェックボックスについた」である。「がんばろう」が0だったと言う意味だ。だから、合格。結果的に安定快経の基準からはお粗末な判断になったが、、なんとなくではなく自分なりの考えと根拠を持って判断したのが効いたのかもしれない。とにかく、SCOTTは、フェイルとは判断しなかった。

このCPL XCからは、ものすごく大切なことを学んだ。

もちろん地上で飛行機を壊したことが最もショッキングな出来事だったが、この事件で私がPPLまで積み重ねてきたものを一旦すべてばらばらにする必要があった。でも、それは絶対に必要なことだった。これがなかったら、私はどんなパイロットになっていただろうか。


プロペラとは、


亜音速で回転している三刀流の剣だ。人間なんか一瞬でばらばらにしてしまう。そんなものを鼻先で回しながら進んでいる時に見えている景色は、


こんな感じ。正面の黄色いコーンは、


こんなに離れている。


翼にちょうどくっつく位置にあるオレンジのコーンは、


この写真の幅一杯のところに置かれたコーンだ。小さくて見づらいが、左右で距離が違うのがわかる。恐ろしいと思わないか。



私にできることは、この出来事からどうにかプラスになることを引き出すことだ。結果的に整備士とも仲良くなれた。タキシング中の事故を防ぐために効果的なトレーニングを開発しろと学校に言われ、ウエストメルトンでチェロキーを動かしながら訓練のアイディアを出した。何よりTHREATに対する注意深さが100倍くらいになった。よし。


レーンのスレスレを行くチェロキー。なんと、自分の座る左席から遠い右の翼をケアするあまり、左にぶつかる傾向が!!やってみて初めてわかる落とし穴。

実際、まだまだタキシング速度が速い学生を見かける。このままでは、第二のASHが出るかもしれない。日本人に対してなら「たるんどる!」と一括すればいいかもしれないが、たとえばインド人にそれは通じない。昨日食べたカレーが日本人には辛過ぎたんだと思われるのが関の山だ。私が今持って、感じている認識を、他の学生にそのままインストールするには、うまいパイロットであるだけでは足りない。自分の考えを相手に伝える能力と、それを逐一確認する注意深さが絶対に必要だし、どの段階の学生に教えるかも重要だ。PPLの最初にやるタキシングエクササイズとしてコレをやっても、あまり意味はないかもしれない。PPLが終わる頃に身に着けた「翼間隔」を、改めて確認する場所にしたほうが効果的な気がする。

テストが遅れて、最後はIFRの訓練とかぶっていったが、実は相乗効果もあった。IFRのスキャニング(計器の連続確認)を体験したあとでVFRを飛ばすと、楽だ。今まで何をしていたんだろうと言うくらい飛行機がずれない。「飛行機は目を離せばずれるものだ」という認識が叩き込まれるからだと思う。もうひとつ上のレベルに行けば「飛行機は目を離してもずれないものだ」に変わるかもしれないが、今はまだだ。笑

こういった細かい相乗効果に加え、大本の、自分がどんなパイロットになるのかという点について、IFRと重なることで得たより深い認識もある。誤解を恐れずに言えば、それは「プロ意識」ということになるが、ここで簡単に「プロ意識」という言葉は本当は使いたくなかった。それはPPLから今まで150時間ほど飛んだ自分と、初めて飛行機を操縦した時の自分、あるいはもっとさかのぼって訓練を始めようと日本で準備していた時の自分で、同じ「プロ意識」という表現から受ける印象や最初に思い浮かべる意味が全然異なるからであり、この文章を読んでいる人に私の認識が、100パーセント正確に伝わらないと思うからである。

100パーセントに近づけるには、まだ少し説明が必要だが、適切な言葉が見つからないのでとりあえず今はそう呼んでおく。



ウエストメルトンの主。


固定スラット!!


モトクロスのリアサスに似ているな。



訓練は続く。ついにIFRだ!!
     2011.08.07 Sunday
後編2などと。だらだらと長くなってしまい心苦しい。スミマセン。

ちょっと説明を入れると、NZではPPLを取った後、CPL(お金をもらって仕事をするパイロットに必要な免許)ライセンスのうち、クロスカントリー(XC)部門のフライトテストがあり、PPLが終わった後はそれに向けてXCフライトの訓練を重ねる。飛行時間がテストの要件に達した時点でXCテストが受けられる。その後、計器飛行照明(IR)の訓練を開始するが、IRのテストには200時間の総飛行時間が必要なため、XCテストが終わった後もじゃんじゃん飛ぶ。私は、XCテストの予約が遅れたため、じゃんじゃん飛んでIRの訓練に食い込んだぐらいでやっとXCのテストを受けることができた。

一連の記事は、このCPL XCテストついての回想を書いているところである。

Forced landingを終えた直後、お約束のEFATO(離陸直後のエンジン故障)をかました後、SCOTTがすかさず

「1500FTに雲、視程800m。」

外を見たって雲なんかひとつもない。視程もKaikouraが見えるんじゃないかというくらいいい。だからといって

「雲なんてないですよ」

などと真顔で反論をしてはいけない。Imaginally Ceiling。試験官が雲と言ったら雲なのである。Precaution landing を想定しなければならない。法律上の最低気象条件を切ってしまう前に、どこかいいところに飛行機を降ろすこと。Forced landing with power。近くにCulverden(CU)があるので、川沿いにこのままCUに続く道まで進んであとはCUまで道をたどる。予想通り、練習どおり。まったく余裕をかましていたら、SCOTTが私の目の前のパネルに手を伸ばし、ALTERNATOR(発電機)の電源を切った。

う。

ここで一瞬脳みその回路が乱された。発電機故障か。電流計をペンでとんとんしながら

「電流流れてないみたいだけど??」

そりゃあんたが今スイッチ切ったからね。同時に私の頭のスイッチも変なところにつながってしまった。どうする、とたずねるSCOTTに、

「I'll carry out precaution landing.」

SCOTTは不満げである。ちょっとまて、なんか違う。発電機が故障すると言うことは、飛行機はバッテリーだけで飛んでいる。そうか、まずはバッテリーの節約だ!

「ライト全部切ります。」

「What else can you do?」

「ここはCLASS Gなので We don't need any radio equipmentsでありまして、TRANSPONDERは発信時に巨大な電力を消費しますです!」

「What else?」

「Precaution landing, because We are flying only on the battery at this moment.」

「Alright...」

不満げである。まずい。だがPICとしてDecisionをした以上、いかねばならぬ、滑走路上を牛が徘徊するCulverdenへ。Precaution Landingである。科目としてのPrecautionはよどみなく進んだ。練習していたので当たり前だ。CUは南北に滑走路が走っており、今日は風がなかったのでどちらを使ってもよかった。南向きを使ったのは、その後Touch and GoでCHに戻るはずだとふんだからだ。CHはCUの南にある。考えようによっては、これもCPLか。金を出すのが自分か、お客さんかの違いだ。

Touch and Goでやっぱり帰投。上昇。CHへのRough HDGをとり、ETAを出す。最初の頃は、これだけのことが大層難しかった。今は4秒でできる。最初はすべて100KT計算。指や手のひらで測った距離に6をかけるだけだ。その後、必要に応じてTASなりGSなりで修正。空域の上限を確認して、高度を3000FTと決めた。

さーて、もう一がんばりだ、つまらないミスをしないように。SARTIME、FUEL、エアスペース、ABRIEF、大丈夫だ、、、さっきの発電機故障以外は。


こうして、安全 快適 経済 定時という4つのテーマに沿って行われる、CPL XC FLIGHT TESTが終了した。最後にCHのCONTROL ZONE内に帰ってきたときは、ほっとした。PPLの頃は、タワーとの交信が恐ろしくて仕方なかったが、今は管制区内のほうが安心できる。CLASS Gの無法地帯のほうがよっぽど怖い。


地上に降りて、飛行機を片付け、BRIEFING ROOMでSCOTTと向かい合う。

前回よりフライトがTIDYになっていてよかった、特にHDGと高度の維持はよくできていた。
HOKITIKAでは離陸前、あるいは直後にFISCOMにコンタクトしてFLIGHT PLANのAMENDをするべきだった。
ETA、FUEL、SARTIMEの更新にも問題はない。
と、ここまではほぼ自己評価と一致する結果である。

「で、Precaution landing だけど。」

やっぱりきたか。

「Precaution landing の定義は??」

「Forced landing with powerです。」

「Do you have to make FORCED LANDING for Alternator failure??」

「I thought it was the best choice at that time.」

「If you were above the mountainous area, would you make that precaution landing due to Alternator failure??」

「Maybe the battery was too weak to accomplish the flight. What if we have an old battery and it might have less capacity compared to the bland-new one?」

「Do you think the aircraft essentially requires the battery to fly on?」




しまった。。。




飛行機の電気系統は、車と違ってエンジンの点火システムと完全に分離された状態になっている。発電機がイカれても、バッテリーが落ちても、MAGUNETOというちょうどガスコンロを点火する時にはじけるような音を出すあれと同じ構造が点火プラグに電流を流す仕組みになっていて、プロペラだけは回り続けることができるのだ。AIRTECHで習った時に感心してへーへーいいながらMAGUNETOのカットモデルをカチャカチャやっていたものだ。知っていたはずだったのに!!

確かに、お客さんを乗せていて、山間で発電機が故障したからといってすぐに降りるとは限らない。早く降りたほうがいいにはいいのだが、そこで発電機を直せなければ、お客さんを目的地に届ける手段がなくなってしまう。お客さんをどうケアするのか。天候など他の理由で飛べない状況であれば仕方がないが、飛べるのなら目的地か、あるいは少なくとも発電機を修理できる設備を持った代替飛行場に着陸するべきだ。だって、エンジンは大丈夫なんだから。

安全 快適 経済 定時。安全を損なうことはなかったが、他の三つをごっそり落とした判断だ。

だ、だめか、、、


「You've got all the ticks on the right boxes.」


は?なんて??BOX?どういう意味だ??困惑する私をいぶかしげに見つめ、

「CONGRATS ASH.」

手を差し出すSCOTT。どうやら合格したらしい。

CPL XC TEST まとめ編 へつづく (スマセン)
     2011.08.05 Friday
空を見上げて、空の青に比べて雲の白が半分以上ある状態をCEILINGという。VFR機は通常、CEILINGの上を飛行してはいけないことになっている。地面が見えなくて危険だからだ。今、目の前のHOKITIKAにはCH INFORMATIONからの情報によるとOVC3500。オーバーキャスト3500フィート。空がすべて白くなっている状態なので、完全なCEILINGである。実際、山の向こう側に雲がべったりしているのが見えてきている。目的地のHOKITIKAに行くには、135(商業運航)の法律にのっとって、この雲の下を飛行することが合法かどうかを判断する必要がある。そのためには、3つの質問に答えなければならない。ここで知らずに雲に入んなきゃいいんだろ、とタカをくくって雲スレスレを飛び、試験に落ちた同期(KIWI)が何人かいる。

1.雲は、地上から1000FT以上?
2.くぐるとして、その高度は3000FT AMSL OR 1000FT AGLより上?
3.1000FT下取って、500FT AGL切らん???

1.がNOなら、135ではCEILINGが地上から1000FTがミニマムなので、くぐれない。
2.がNOなら、(つまり飛行する高度が一定以上低ければ)雲スレスレをいけることになっている。くぐれる。
3.2.がYESの場合、(つまり飛行する高度が一定以上高い場合)雲から縦に1000FT離れなければならない。
そして、そのときの高度が通常の最低高度である500FT AGLを切ってはいけない。切っていないなら、くぐれる。

今回のケース。OVC3500ただし、これはAGL(地上からの高さ)だ。
1.YES AGL3500だ。
2.YES 雲スレスレを飛んだ場合、3000FT AMSLまたは1000AGLより高いのでスレスレは飛べない。
3.YES HOKITIKAのELEVATONは146FTなので、2646FT AMSLで飛べば雲からちょうど1000FT下を
  飛ぶことになる。高度計の表示は海面高度(AMSL)だ。2500FT AMSLでいこう。


山の向こうに雲が見えてくる。天気ってやつは本当に面白い。後ろには雲ひとつない晴天なのに、前にはびっしりと雲雲雲。さっき計算したTOP OF DESCEND(TOD:降下開始点)は、3度(5%)の降下角で下ろした時に、ちょうど空港の2マイル手前でJOINING HEIGHTになるように設定したものだったが、3度で下ろしていたのでは雲の下に降りるのに間に合いそうにない。かといってTODを早めるわけにも行かない。目の前には、まだ雪をかぶった高い山があるからだ。

とりあえずその高い山を越えて、降下開始。TODはほぼ計算どおりの地点だ。450〜500FT/minで降りるとちょうど5%になるのだが、それでは間に合わないことがわかったので、乗客のCONFORTも考えて700FT/minでの降下をきめた。にゃろ、それでも間に合わないか!パワーを絞ってスピードを遅くする。前に進むスピードが遅くなり、これで雲の下には間に合いそうだが、飛び越える予定だった小さい山(ちび山と呼ぼう)がルート上にあるので、迂回しなければならない。速度が遅くなり、ルートから外れるので、ETAは少しずれるかもしれない。

そんなことはどうでもいい。

ここからはプチMOUNTAIN FLIGHTになるので、優先順位を切り替える。訓練中は、そうわかっていても今まで組み上げたフライトの結果である「目的地のETA」に固執してしまうことがあった。今は大丈夫だ。積み重ねてきた大切なものをかなぐり捨てて、今ここ、に集中すること!今一番重要なのは、山にぶつからないこと、HOKITIKAから上がってくるTRAFFICに注意すること。無線は頼りにならない。こちらから位置を通報はするが、ちび山の向こう側にHOKITIKAの空港はある。山の陰に隠れて無線の電波が届かないかもしれない。ちび山の向こう側からいつ小型機が飛び出してくるか知れない。もしここでエンジンがとまったら?ちび山から放射状に針葉樹林が広がっている。この上を2000FTそこそこで飛んでいるのはあまり気持ちのいいものではない。多少大回りになるけど、平野部が残っているところをたどっていこう。SARTIME OK、FUEL TANK CHANGE。ETA??んーあと10分くらいじゃ?多分、そのくらいさ。

HOKITIKAには誰もいなかった。

地上に降りて、SCOTTに燃やしたFUELを計算しろ、と言われて燃費を測ってみると、18L/hと出た。随分いい。燃料計算は通常25L/hでやっているので、28%も計算より燃費がいいことになる。。。本当か??笑 燃料は2回量ったので間違いない。ただ、DIP STICKという木の棒を差し入れて量るので、傾いたりしていると誤差がでる可能性はある。まぁ、燃費がいいに越したことはない。よかったよかった。

次どこ行くんすかと聞くと、まだ決めていないと言う。「どっこいこっかなー」と、まるで修学旅行の寺めぐりのコースを決める中学生みたいにつまらなそうにVNCを見つめるSCOTT。

「ALRIGHT, LETS GO TO LAKE SUMNER THOUGH.」

LAKE SUMNERはここから真東に50マイルのところにある、山間の湖だ。ははぁ、ここからMOUNTAIN FLIGHTの要件を満たす魂胆だな。そして、CULVERDENかどっかでPRECAUTION LANDINGやってSOUTH BROOK ARRIVALで帰るんだな。。。通常は上空でこのようなDIVERSIONが指示されるのだが、ラッキーなことにSCOTTが地上で指示を出してくれたことに加え、私が地図を折りなおしている間にTAXIINGをはじめてくれた。しめた、ここで定規使って距離測っちまおう!HOKITIKAと目的地の湖にそれぞれ大きめの丸を描き、それを直線でつなげる。距離と方角を測って準備完了。HDG 070M 52マイルだ。35分くらいかな。

離陸。でも本当は飛ぶ前にFLIGHT PLANのAMENDを入れるべきだった。山間は直進性の強いVHF帯の電波が届きづらい。これから山に入ることがわかっていたのに、それをせずに上がってしまったおかげで、結局ほぼLAKE SUMNERが見えるところまでいってやっと電波が入り、AMENDできた。おそまつ。

FLIGHT PLANは、LAKE SUMNER -> NZCHとしたが、LAKE SUMNERについてもNZCHに針路を向けようとしない。やっぱりな。このまま東に飛んでCULVERDENコースだな。思い浮かべるのはIMAGINARY CEILING、PANPAN CALL CULVERDENのELEVATION、100AGLの計器高度、CULVERDENからCHへのROUGH HEADING...

「ENGINE FAILURE!!」

SCOTTが叫ぶ。

にゃろ、そうきたか。CARB HEAT ON, THROTTLE CLOSE, SPEED 70, TRIM TRIM TRIM!! 7500FTからのFORCED LANDING。風はほぼない。「ほぼない」と一応自分の認識を伝えて、PADOCKとFINAL の方向を伝える。今日は風よりもPADOCKの状態が重要、SLOPEやCONDITIONなど。落ち着いたところでTROUBLE CHK。高度があるので、何回かS字状に旋回しながら、常に翼の先端でパドックを撫でるようにポジションを取りながら降りていく。DWで近づき過ぎてファイナルターンが急になり過ぎないように。うーん。割と余裕を持ってできた。


後編2へつづく。笑
     2011.08.02 Tuesday
上昇しながら、OFF TRKを目測する。ほとんどずれていない。地図に書かれている線の上をビッタシ飛んでいるようだ。FJRはスロットルをフルパワーにしてもRPMがレッドラインを超えない。EYAなんかになると、上昇中でもRPMゲージが右に振り切ってしまって、うっとうしい。FJRはいい子なのだ。コールサインは発音しづらいけれど。FOXTLOT JULIET ROMEO。ほとんどフォクショッジューリッロミーと言っている。

OXFORDの通過時間をとる。以前は、自分がどこにいるのか不安で不安でその時間を今後何に使うのかわからないまま闇雲に地図に×を書いては、時間を記録して無駄に忙しかった。今は違う。OXFORDで時間をとることは、BRIEFING ROOMにいるとき、もう決めていたことだ。ここで倍角修正をするのと、GROUND SPEED(GS)算出の基点にするためだ。クロカンで大事なのは、何をするべきか、ではなく、何をしなくてよいか、という観点を持つことだと思う。コクピットに無駄な仕事なんか入れてはいけない。遅いと言っても、180km/hでぶっ飛んでいるのだ。

あと21マイル進むと、ひょうたん型をしたLAKE PEASONの上を通過するはずだ。そこでもう一度時間をとり、OXFORDから何分かかったか(EET)をもとにGSを出す。100KT計算なら、20マイルは12分(6の段/10)だから、あと10分くらいは、外の景色を楽しむ余裕がある。(もちろん「見張り」と言う意味で。念為。笑)上昇中のレグでGSを測ると、高度差による風の影響が出てくるが、今日は風が強くないので大丈夫だろう。重要なのはHDGを固定して真っ直ぐ飛び、真対気速度すなわちTASを維持することだ。

TASは速度計についているダイヤルを回して、速度計の表示そのものに補正をかける。天井についているアナログの温度計を見て、その温度と現在の気圧高度を速度計の目盛り上であわせると、いつも90KTを指していたところに100KTの目盛りがスライドしてきて、TASが100KTだとわかる。飛行機は空気の中を飛ぶので、こういうことが起こる。

機種方位(HDG)を示すDIRECTION INDICATOR(DI)も、地球の自転と機械自身がもつ部品間の摩擦によってCOMPASSが示す正しい表示から少しずつずれていく。こいつらも時々チェックして、ずれていたら都度手で直す。DIを固定しているからと言って、HDGを維持しているとは限らないのだ。

通常クロカンで使われるWORRIERやARCHIERという飛行機は、GLASS COCKPITといって計器が機械ではなく液晶画面に表示されている。対地速度(GS)、真対気速度(TAS)もコンピュータが計算して画面に出してくれるし、COMPASSとDIを電気的にシンクロさせて、ズレを自動で直すシステムが使われている。値段は高いが速度が出るのと安定感があるのでクロカンが快適になるし、GPSを表示しておけば、自分のPOSITION FIXとダブルチェックもできる。使えるものを使えばより効率的なオペレーションができるということだ。

トマには、上記のような高級な機材が付いていないので、より人間が面倒を見てやらなければならない。トマホークでクロカンに行くやつなんか、今はほとんどいない。私は、TASの算出の原理や、COMPASSで飛ぶことの重要性がわかるので、悪くはないと思う。何を学びたいかによるのだろう。

そうこうしているうちにLAKE PEASON。高度は7500FT。75%のPOWER SETTINGは、7500FTでは2500回転を超える。奥の深いSTRAIGHT&LEVEL(等速直線水平飛行)が始まる。 PPLまではATTITUDEをあわせること、4本指をしっかり見つけることにこだわっていたが、最近はパワーセッティングを注意してみている。トマはプロペラが固定ピッチなので、すぐにずれる。IFRのように、パワーを固定してS&LになるところにATTITUDEをあわせると、自然に速度も合う。その時のPOWER SETTINGの根拠は、もちろんFLIGHT MANUALに書いてある。

翼の前縁真下に湖の中心が来たことを確認して、TIME。こういう作業をしている時こそ、HDGに注意を払う。ちらちらと前を見ながら、自分でラミネートした地図に油性ペンで時間、GS、目的地HOKITIKAへの到着予定時刻(ETA)を書き込んでいく。今まではこういう作業はひざの上においてあるFLIGHT LOG上でやっていたが、最近は頭を使っている最中はLOGは書かないことにしている。視線が下がるし、LOGが汚くなるだけだからだ。作業は地図でやって、書いてあることを、後で暇な時にLOGに書く。なんなら地上に降りてからでもいい。ちなみにこの地図に書いた油性ペンの文字は、ホワイトボードマーカーでなぞった後にスポンジで一拭きすれば一瞬で落ちる。理由はわからない。GREGが教えてくれた。

スムースである。防音が十分でないコクピット内は、大き目のエンジン音で満たされている。視界のほぼ360°にわたって真っ白な脊梁山脈が連なっている。以前はこの上に浮かんでいることが怖くて仕方がなかった。どれがどの山かまったくわからないからだ。今は違う。今はその奥にHOKITIKAがあることを知っているし、さっき通ったLAKE PEASONもみえているし、CANTERBURY平野もまだかすかに見える。もしエンジンが止まっても、高度があるしすぐ下にある川に沿って不時着できないこともない。SARTIMEもFUELも大丈夫だ。そうだ、降下を開始するところはどこにしようかな、HOKITIKAは1700FTでJOININGか、だいたい6000FTおろすから5%で下ろすとして18マイル手前か、切りよく20マイル手前にしよう。あ、CH INFORMATIONにHOKITIKAの天気を聞いとくか。あとは他には、、、なにもやることがなくなってしまった。マネジメントがうまくいっている証拠である。まぁ見張りだけしっかりやっておこう。


違う日にとった違う場所の写真。でもこんな感じ。

HOKITIKAの天気は地上でのブリーフィングどおり、雲がべったり3500FTにある。ただ、BKNがOVCに変わっている。雲の量が増えて晴れ間がどこにもないということだ。SCOTTがなんとなくソワソワしだしている。おおーここはCPL XCの目玉、「この雲、下通れますか大会」だ!

後編へ つづく
     2011.08.01 Monday
CPL XCのFLIGHT TESTは、延びに延びた。なにしろ、もう8月である。

先週からRECEPTIONに何度も足を運んでテストテストとわめいては予約を入れてもらっていた。天井に温度計が付いているFJRがよくて、その旨頼み込んで前日にプリフライトをして風防を磨いて準備万端!!なのに雪!!とか、WESTERLY!!とかで延びた。

延びたのには理由があって、天気もそうだが、私がTOMAHAWKでクロカンテストを受けようと言うところが大きかった。通常、この学校のクロスカントリートレーニングは、PIPER WORRIER、ARCHIER等の高性能機で、燃料をFULL TANKにして飛んでいく。TIMARUだろうがHOKITIKAだろうが満タンだ。こいつらは足が速いのと、何かあったときの残存燃料は、多いほうがいいというのが理由だ。

ところが、トマは最大離陸重量(MAUW)が他の機体と比べて小さいので、人間が二人乗るとガソリンを減らさなければならない。試験官は学校のインストラクター(B-CAT)のうち、資格を持った人が担当するのだが、うまくないことに、こちらの教官は若干大柄な風体の人たちが多いので、誰とでも飛べるというわけではない。自然、飛行機の予約ができて、天気がよくて、軽めの試験官(まぁSCOTTだろう)が空いている日、というめぐり合わせが必要になり、それで延びてしまったのだ。

本日、飛行機はEYDで入れられていたのだが、土曜日に学校に来て受付のC-CAT見習いクンにFJRに変えてもらっていた。なにしろ何回もプリフライトをやった機体だ。窓はぴかぴかだし、オイルは規定量入っているし、予備オイルも放り込んであるし、FUELだって左右のタンクに48Lずつ入っている。試験官のSCOTTと私と荷物5kg入れた状態で、MAUWぴったりにしてある。機体が変われば重量も微妙に変わるし、いろいろやり直さなければならない。面倒だし、当日になって「やべー!オイルが規定量入っていない!!」なんていうのは、プロとして間抜け以外の何者でもない。

だから変えてもらった。

クロカンのテスト規定には、準備は1時間以内でやること、とある。これを守る方法は、いろいろあるだろう。人を使っても良いだろうし、オイルも窓拭きも燃料も、その日に急いでやってできるならそれでいい。やり方は人それぞれでどんなふうにやってもいい。(この変は、日本と違いそうだ)でも、1時間以内という結果は出さなければならない。そのために必要なのは何なのか、そこから考えてフライトをくみ上げていくこと。このへんの力も試されてるんじゃないかなと思う。(大げさか)


さて、天気はよし。1028hPaの高気圧が国中を覆っている。高気圧の中心は東の海上にあるので、反時計回りのゆるい風が海から吹き込む西海岸ではBKN30などの雲が見られる。全体的に大気がSTABLEな状態なので、朝はFOGに注意だがCHには出ていない。湿度が低いからだろう。SCOTTにそう報告すると、

「西海岸のどっかにいこう!」

どっかって・・・自分で決めて良いらしい。じゃぁ、慣れているHOKITIKAで。いや、着陸料が安いGRAY MOUTHに・・・いや、まて、やっぱりHOKITIKAで。(む、及び腰だと?なんとでもいうがいいさ。)そこから先は、上がってからテキトーに決めるらしい。そうですか。


RWYはSEAL02。どの道GRASSはこのときCLOSEだったが、135(商業運航)要件で作った離陸距離からGLASS RWYではなく、長いSEALを使いますと一応伝える。START UPからLINE UPまで万事滞りなく進む。自分で改変を重ねたDEPARTURE BRIEFINGをして頭にフライト全体のイメージを作り、ジェット機のように2000RPMで一度計器をチェックしてフルパワーで離陸。

TWO CHAIN DEPARTUREの出口であるEYREWELL VORからHOKITIKAに引いたTRKをINTERCEPT。IFRであるかのようにHDGにこだわる。ちょうど15マイルくらいいったところにOXFORDの町、その先にMt.OXFORDがある。それを目印にしてOFF TRKを知る。最近は、この「15マイル付近」というのが使いやすい。このくらいでOFF TRKが見えると、早目に倍角修正で直してビッタシTRKに乗せやすい。これをきっちりやるためにも、HDGは守りきる。倍角修正は上空の実際の風に対する修正なので、しっかりやれば理屈上TRKはずれないはずだ。それがずれるというのは、風が変わったか、HDGの計算と維持が甘いか。高度が変われば前者もあるだろうが、自分の力量からいって、後者に嫌疑がかかってもしかたがない。だから今日はがんばる。ちなみに15マイルいったところのOFF TRKは1マイル4度。2マイルで8度。あとは九X九 4の段。10マイルなら6の段。20マイルなら3の段。30マイルなら2の段。日本人でよかった。

GSを出すところはあらかじめ決めてある。最近まで、HALF WAYを無暗にとって、そこで取ったGS(さらにはETA)が合わねー合わねーと文句をたれていたが、HALFWAYを知るための目印がなければ、いくら地図に1/2と大業に書いてあってもむなしいだけである。さらにHDGと同様、ちゃんとTASを一定にして飛ばす意識があったかというと、やっぱり怪しい。NAVIGATEの前提となるAVIATEの精度がグラグラだと、当然、NAVIGATIONは不正確になる。当たり前の話だ。でも、S&Lこそ難しい。トマはどんどんDIずれるし。

今まで学んだことのすべてに注意を払いながら、7500FTに向け、HDG 283Mで上昇中。


中篇につづく



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