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     2013.07.26 Friday
今日はいいニュースである!

同期のRYOが、某青い会社(正確には子会社)に本内定したとの連絡を受けた!

その1ヶ月前には同期のTAKAが、某派手な色の会社に合格していた!

そして4月には同期のMAKIが、ニュージーランドで他の学校に教官として採用された!

同期が3人、無事パイロットとして職を得たことはとても誇らしいことだ。訓練を始めたのが2010年の10月だから、約2年半。彼らはニュージーランドから帰国して日本で資金を貯めるために働く必要が無かったので、日本で就職したRYOとTAKA、ニュージーランドで就職したMAKIともに考えられる最短コース例となる。RYOはもっと前に内々定していたし、MAKIは母校に雇われたのが1年くらい前だから、実績としては1年半〜2年半という範囲で就職が決まったことになる。RYOはB737、TAKAはA320だ。皆これからが本番だから安全第一でがんばってほしいと思う。



で。



私はいまだに使う当てのない免許だけ持ってプラプラしている。いや、実は今週、考えうる限り最高の準備をして、持ちうるかぎり全ての武器の火力を集中して総攻撃を仕掛けたのだが、アッサリ跳ね返されて意気消沈しているところだ。今までやってきたことはなんだったんだろうか。プロパイロットとしてこの文章を書けないのは非常に残念だ。


CURRICULUM VITAE
話は昨年の11月にさかのぼる。

私が日本で働いているときに、C-catの募集があった。まだ日本でやるか、海外でやるか決めかねていた頃だが、当然その募集には間に合わない。でもやる気を見せる意味で一丁出してみるか、と初めて海外の会社にCV(履歴書)と呼ばれるものを出すことにしたのだが、現地の教官からは「でも明日締め切りらしいよ」と言われた。多分教官は書けるとは思わなかったかもしれない。何しろ、連絡があったのは締め切り日前日の夜。次の日は平日だったのでもちろん仕事だった。でも夜2時までかかってドラフトを仕上げ、次の日も目を血走らせながら通勤電車の中や休み時間を利用して書き上げ、何とか昼休みまでに送ることが出来たのだった。[1]命を削って書いた履歴書は結構評判が良かったらしく、うれしかった。

再渡航
そして今年の1月にニュージランドへ再渡航した。母校でやるつもりではあったが、インストラクターとしての就職は保証できないということだったので、最も可能性の高いところを探そうと色々調べた。旅行ついでに行ったNelson Aviation CollegeではCEOたちと面接して、好印象を得た。のちにコース参加へのオファーをもらったが、色々勘案した結果結局古巣で飛ぶことにして、C-catコースが始まるまでお客さんを乗せたり子供を乗せたりしてフライト時間を貯めていた

力仕事
C-catが始まる前までは、毎日朝7時半に学校に行って自分が乗らない飛行機をハンガーから引っ張り出し、駐機場に並べていった。朝飛ぶ学生がやらなければならないことなのだが、寒くなってくるとだんだん人手が減ってくる。それでも仕事が欲しいと思っていたので汚れ仕事を進んでした。文字通り一日も欠かさず毎日やった。飛行機を出せば仕事がもらえる訳ではないことは分かっている。自分で決めたことを守り通せば何か良いことが起きるかもしれないと思っただけだ。

夕方になると受付がよく校内放送をするようになる。「All available students to the reception please」というのが定形文なのだが、要するに手が空いている人は駐機場の飛行機をハンガーに片付けて、と言う意味だ。これも受付のKiwiが恐縮するぐらい引き受けた。ほとんどの学生は一度放送が入ったくらいでは席を立たない。受付とは仲良くなったので飛行機のブッキングが少しスムースになった。

C-catコース
いよいよコースが始まって、ものすごく苦労して訓練した。地上でしっかり準備してやる私のスタイルと、上でやりながら覚えるKiwiのスタイルの歯車が全く噛み合ずに非常にストレスフルだった。試験の前日まで受かる気がしなかったが、やってみると試験自体は大したこと無かった。今まで試験のレポートを書いていなかったのも、以外とあっさり終わってしまったからだ。

5月中旬にC-cat試験に合格。すぐに就職できるものと踏んでいた。Jay(校長先生)の評判がかなり良いとも言われていたし、社長には日本人教官の需要があるぞ!と言われていたからだ。今から思うと寝言は寝て言えば良いのにという感じだが、当時は真に受けてヘラヘラしていた。

本当の戦いはここからだった。


つづく




1. 時差があるので日本時間の13時、現地時間の16時までには出したかった。ニュージーランド人が17時以降も働いているワケがないからだ。
     2013.07.13 Saturday
仕事がなくて暇なので、ニュージーランドのATPL(エアラインの機長として飛ぶのに必要な免許)の要件の一つであるBGT(Basic Gas Turbine)という学科試験を受けることにした。

ガスタービンというのは筒状になっているジェットエンジンの心臓部に使われている装置だ。ジェットエンジンとは、簡単に言うと空気を加速するための筒である。筒の前から空気を吸い込み、筒の中で燃料と混ぜて点火、熱エネルギーを付与された空気が高温・高速のガスとなって筒の後ろから吐き出される。ジェットエンジンは、この空気を加速する力の反作用として推力を得る。[1]

空気を継続的に加速するメカニズムにはいくつかある[2]のだが、飛行機によく使われているのがガスタービンというわけだ。その仕組みについては、動画を見た方が分かりやすいだろう。便利な時代になったものだ。



ちょうど学校が外部の講師を招聘してBGTのクラスを開催するという。費用は3日間で250ドル。土日を座学、月曜にAir Force Museumに行ってエンジンのカットモデルを見ながらやるというものだ。校長先生のJayにも「相談」し、勉強してるぜ雇ってくれアピールを続ける。講師はJayの友人らしく、250ドルで彼の授業ならお買い得らしい。面白そうなので受けてみることにした。


教室の空気
クラス当日、朝8時半から授業開始。学生として参加するのは学校の生徒が10人、インストラクターが3人、外部から2人。講師はJohnという元キャセイパシフィックの航空機関士のおっちゃん。今はヴァージンアトランティック航空でグラウンドコースを専門にやっている。空軍[3]にいたこともあるらしい。自己紹介をそこそこに授業を始めた。

熱力学の上っ面をおさらいし、ジェットエンジンが開発された歴史的経緯をエンジンの実例を挙げながら説明。だんだんとテクニカルな内容に入っていく。面白い。でも本当にざっくりざっくりやっていくので、細かい所が気になる。

例えば、コンプレッサについて。ガスタービンエンジンでは、筒が吸い込む空気を圧縮して空気の密度を大きくするためにコンプレッサを使っている。これにより、後で火をつけたときにより多くのエネルギーを取り出せる。軸流式コンプレッサは「ベルヌーイの法則」を利用して圧力を上げていくという。この法則によれば、流れの中にある空気の速度と圧力は一方が下がったら他方が上がるというトレードオフの関係にある。にもかかわらず、Johnが平気でこんなことを言い放った。

「吸い込んだときの空気の速度をほとんど変えること無く、圧力を20倍くらいにできるんだ。」

なにー!?!?!とハニワ顔で驚いているのは私だけ。教室はしんとしている。速度と圧力はトレードオフの関係にあるはずだろ?圧力が20倍になるなら速度は1/20にならなければならないじゃないか![4]おかしいじゃないか。。。

授業を受けている連中のなかには、そんなことを気にするものはいないらしい。皆、しーんとしながら聞いている。いや、寝てるやつもいる。なんだか高校時代を思い出す。いや、そんなことはどうでもいい。なんで皆、疑問に思わないのだろうか。びっくりしたのは今回学生として参加しているうちの学校のインストラクター達だ。ある女性のインストラクターは、Johnが当てても「わからない」としか言わない。普段自分たちが教えている学生の前で間違いをするのが怖いのだろうか。それにしても、なんかもうちょっとないのかね。


B787についている最新エンジン、GEnxが出来るまで。軽快な音楽とともに。


その後も細かい疑問を発掘してはいちいち授業を止めにかかる私。その後、少し空気を読んである程度ためてからにしたけれども、質問するのはやはり孤独に私一人。皆、もったいないと思わないのだろうか、250ドルも払っているのに。授業の後半になってやっとだんだん質問をするやつが出てきた。ほとんど前に座っている学生の数人と、外部から来た、この試験に2回フェイルしているという兄ちゃん。少し活気が出てきた。


根掘り葉掘りの
家でもうんうんうなりながら日本語のジェットエンジンの教科書とインターネットにかじりついてノートに書き出していく。やればやるほど疑問が出てくる。例えば、

・ガスタービンの理論サイクルであるブレイトンサイクルの熱効率は燃焼温度に無関係で圧力比のみに依存するのに、実際のガスタービンはタービン入り口温度に応じた圧力比の向上が高効率化のカギだとか

・ジェットエンジンの熱効率の公式に圧力の項がないとか

コンプレッサーストールコンプレッサーサージの違いが曖昧だとか

・ターボファンエンジンのファンの先端はものによっては明らかに音速を超えているのになんで損失が無いんだとか

・ターボプロップ(ジェットエンジンの先端にプロペラをつけたもの)やターボシャフト(ヘリのエンジン等)は回転力を取り出すから軸馬力で性能を測るという一方で、回転するファンが推力の8割を作り出すターボファンはなぜターボジェットと同じくスラストで性能を測るのだろうかとか

・FCUが定常状態で理論空燃比を維持するなら、加速したくてスロットルレバーを進めたら空燃比が濃くなってガスの温度が下がり、タービンひいてはコンプレッサ回転数は下がるだろうから出力が増えるはずがないじゃないかとか

・大雨でもなんでエンジンは止まらないんだとか

・吸い込んだ鳥や雹はどうなっちまうんだとか。。。

最後の2つに関しては下記の動画が面白い。実際に冷凍チキンや氷やそのエンジンが経験し得ないだろう量の水を吹き込む性能試験。




わかってますよ
そんなことを知る必要がないってことは。原因と結果だけ知っていれば、とりあえず試験には受かる。実運航にしたって、ものすごく乱暴に言えば、何をいじると何が増えるのか、どれをいじるとどれが減るのか。パイロットが覚えなければいけない知識の大半はこの二つの関係に帰着する。あとはそれを組み合わせて自分の判断の根拠にすれば良いだけだ。スロットルを進めれば燃料の流量が増えてガスの温度が上がってパワーが出るんだけどタービンが融けないようにEGTに注意しておく、そういうことがわかっていればいいのだ。なぜ燃焼温度が最も高いはずのの理論空燃比から外れるのに温度が上がるんだという疑問は別に持たなくていい。

でも、気になってしまうんだからしかたがない。コースが終わったあとも、空港の反対側にあるJohnのオフィスに連日押し掛け質問攻めに。いいかげん辟易されるかと思いきや、ここまで興味を持つ学生が珍しいのかまんざらでもない様子。ただ、話好きでどんどん論点がズレていくタイプなので、議論しているうちに聞きたかったことが何だったか忘れることも多かった。

そして迎えた試験当日。1時間の試験を20分で解答、20分を見直しに当てて質問をいくつか覚えて退席。結果は93点でパス。よしよし、無駄ではない、無駄ではないのだ。。。

報告がてらスカイプで日本にいる父と話す。なにやら家の結露対策で壁紙を張り替えるらしい。へー、そうなんだ、家中張り替えるとなると結構大変だね、相見積もり取って値段と相談か。


「結露が出来る仕組みから、断熱材の種類や効果まで全部下調べして業者と話した。」




・・・血筋か。





1. 初期のジェットエンジンであるターボジェットがこの仕組みで推力を得る。現代ではうるさくて効率の悪いターボジェットはほとんど使われていない。最前部につけた巨大なファンやプロペラで推力のほとんどをカバーするターボファンやターボプロップが主流。

2. ガスタービン使わない筒の例。コンセプトだけど凄い。宇宙船みたいだ。

3. ニュージーランド空軍には戦闘機がない。こんな南極に近い島国なんて誰も攻めて来ないだろうということで2001年にA-4からF-16へのリニューアルを蹴ってそのまま戦闘能力を保有することをやめてしまった。

4. この疑問の答えはこうだ。軸流式コンプレッサは、このWikipediaのページにあるとおりロータという動く羽とステータと呼ばれる動かない羽が交互に並んでいる。それらは断面図で見るとダイバージェント・ダクトと呼ばれる末広がりのダクトを形成している。ダイバージェント・ダクトを通る空気は、拡散作用を受けて圧力が上がるのだが、速度は下がる。回転するロータは、その下がった空気の速度を回復させて次のロータ・ステータに送る役割をするのだが、私はここで速度が回復するならそれに伴って圧力は下がるのでは?と思った訳だ。だが、ロータそのものもダイバージェント・ダクトを形成しているため、ロータに対する速度は低下する。この減速は動いているロータに対しての相対速度なので、ロータの外から見る人(絶対速度しか見えない人)には加速しながら圧力が上がるという不思議なことが起きる。私がハニワ顔になったのもそのためだ。元に戻った絶対速度は次のステータでまた減速、圧力の上昇に使われる。最終的にそれらが積み重なって絶対速度は一定、圧力だけが上昇という状態を作り出せる。

よく考えればベルヌーイの法則はエネルギーの保存則だから、速度のエネルギーを段階的に「付与」されたら全体のエネルギーは増えていく訳で、本来ならステータとロータで速度を圧力に換えられて元の絶対速度より遅くなっているはずの空気を、ロータが回転していることで元のレベルまで回復させているというだけの話だ。言われてみれば当たり前なのだが、そのエネルギーの増分を全て圧力として出口で取り出せるその工夫に私は関心したのだ。驚きポイントだと思うんだけどなー。



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