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     2023.10.29 Sunday

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     2013.08.29 Thursday
朝一番にチーフインストラクターJayのいる部屋へ。

ノックをすると生返事が返ってきた。Jayは私の顔を見るなり眉毛が一瞬寄ったあとにいつのの笑顔になった。「またきたか!」と思っているんだね、うん、また来たよ、手紙の束を持ってね♪

少しの沈黙のあと、意を決してしゃべり出す。

「明日、日本人チームリーダーと一緒にここへ来て私がどのように学校に貢献できるかを書類も添えて説明しにくるけど、その前1対1で話がしたかったんだ。」

なるほど、とJay。

「明日は多分、学生をどうやってリクルートするかとか、いかに日本人学生の面倒をみられるかとかそういうビジネスライクな話になると思うけど、今日はもっと根本的な話をしたいんだ。それは、私は単にGood Instructorになりたいってことなんだ。」

ここまで言うと、顔つきを変え、手を顎の下に持ってきて下から覗き見るような格好をした。値踏みされている。

「私はGood Instructorということをこう考えているんだ。それは学生の命を守れることと、クルーとして皆と協力できること。」

どうやったら学生の命を守れると思う?とJay、食いついてきた!

「まずは緊急事態に正しく対処できること、それを学生自身にも身につけてもらうこと。」

違う、それだけじゃない。とJay、よし、ここからアドバイスを聴く良い学生の眼差しを向ける。目はそらさない。

Situation awareness(状況認識)だよ。何もエマージェンシーだけが命に関わる問題じゃない、普通に飛んでいるだけでも周りにトラフィックはいるし、風が強い、Visが悪いみたいなことだってThreatだろう、つまり、、、

「TEM、ですね。。。」うやうやしく声をかぶせていく。まるで下手な演劇みたいだが、ラポールができつつある。

「ありがとう、明日は学生の数とかビジネスプランとかを話すと思うけど、もっと基本的でコアな部分の気持ちを伝えておきたかったんだ。それと、これはPPLリーダーとJohnのリファレンスレター、それと、これは学生がわざわざ私のために書いてくれたリファレンスレター。いいインストラクターになって、彼らを喜ばせてあげたいと思う。」

ありがとう、とJay、笑顔を交わして部屋を出る。。。

ブハ、疲れた。でも手応えはあったぞ!


つづく









     2013.08.21 Wednesday
秘密兵器を手に入れて、戦いの準備は整いつつあった。社長が提示した条件、チーフインストラクターと日本人チームリーダーの両方に「欲しい」と言ってもらうことを目指してきた。次は日本人チームリーダー。

営業の話をしよう。
私立学校は、毎年新しい学生を確保しないとつぶれてしまう。勢い、学生のリクルート活動がとても重要な仕事になってくる。普通は営業要員を雇い、一任する。うちの学校でも日本以外の国、主にインドやインドネシアなどのアジア方面の学生に関しては、学校がエージェントと契約して広告を出すことで学生を集めている。この方法ではインストラクターは学生を連れてくる作業をする必要は無いため、「飛ぶ」という本来の業務に集中できる。インストラクターとしては口を開けていれば学生があてがわれるので願っても無い制度だが、学生が来なければ一緒に飛ぶ相手も居なくなるということなので、一長一短だ。また、この制度では金銭的なリスクは学生がかぶる。エージェント利用料が必要なため、学費に値上げ圧力がかかるのだ。それでも、海外の学生は増えている。一定の成果をあげているようだ。


こむずかしい話になってきたので一息。Abel Tasman で撮った海。無加工の色です。

ところが、日本の学生はそうはいかない。パイロットに応募するまでの時間が短いため、訓練の質にこだわる傾向がある。また、取得した海外の免許を日本のものに切り替えるために、さらに日本で訓練をしなければならない。これにものすごいお金がかかる[1]。自社養成や航空大学じゃ無い限り、それらは全額自腹だ。だから「そんな大金を払って本当にパイロットになれるんですか?」という一点で、ものすごく慎重になっている。数ある海外訓練校の中から、高くて遠いニュージーランドの学校を選んでもらうには、広告をばらまいてあぐらをかいているだけではダメだったのだ。

上記のような理由から、日本人学生のリクルートはインストラクターが直接日本におもむき、主に口コミとインターネットで評判を聞きつけた人たちを集めて「座談会」という形で説明を行ってきた。これは私の師匠が初めてこの学校に日本人マーケットを開拓したときからつづくコンセプトだ。訓練を担当する当事者が対面で個人的に会話することで、信頼され、それが結果的に学校を選んでもらうことにつながってきた。私もその一人だが、学生に取っては親切なこの方法[2]は、しかし、営業を担当するインストラクターには重い負担になる。何しろ専門外の業務が一人分増えるのだからして。まるでLCCの乗務員みたいだ。[3]

日本人チームリーダーにアピールするなら、このテの業務負担を軽減できますという点になるだろう。

自画自賛
自分は小さいがメディアを持っているし、座談会を手伝ったこともある。日本で書き換え訓練をし、エアラインに就職した同期とも連絡を取り合える。13万もしたMacでちゃちゃっとチラシをつくることもできるし、付け焼き刃のCSSとHTMLの知識もあるのでWeb pageの書き換えも少しならできる。営業に応用できるスキルが多少はあることになる。しかも飛べるし、インストラクションもできる。その辺を押し込んでみた。


ビーバー!星形エンジン!

まぁ最終的にはそんなにビジネスライクな話にはならなかった。人となりは訓練生時代でよくわかってもらえていので、推薦してもらうことにあっさり同意してもらえた。よし。ここでもう一押し、ということで、手紙を書いてもらうことになったのだが、チームリーダーは忙しく、なかなか時間が取れない。すると、その日の路線業務を終えて顔を出していた師匠が思い出したようにこう言った。

「君がチームリーダーになり代わって手紙を書いて、後でチェックとサインしてもらえばいいんじゃないか。」

確かにその通りだが、今まで書いたものの中で最も難しい手紙のひとつとなった。何しろ、自分のことを手放しでほめまくるのだ。それでも何とか書き終えて、ドラフトとして渡す。校正してもらった後、サインを入れてもらえた。武器はそろった。まずはチーフインストラクターに確約をもらいにいき、そのあと社長だ。

つづく



1. 約1000万円ほど。詳しくはこちら。やこちらを参照。

2. 本来の仕事をする時間を圧迫するという意味で、人材を活用しきれていないともとれるこの方法は、理解がされづらい面もある。人を連れてきたいならインストラクターではなく営業マンを雇えばいいだろう、というわけだ。確かにそうかもしれない。でも、我々は工場で工業製品を造っているわけではない。学校は教育を提供するところだ。学生を数字と見なせば、その管理には工場のメタファーが有用かもしれないが、死なないパイロットをつくるという教育理念を実現するには、正論では思うとおりの結果が出せないこともあるだろう。

3. LCCの乗務員は、飛行機の重量計算や機内清掃、乗客の案内など一人何役もこなすという。以前一緒に住んでいたパイロットの友人もブーブー言っていたっけ。
     2013.08.10 Saturday
校長と日本人チームリーダーから「欲しい」と言われれば、社長にYesと言わせることができる。

よし。

まずは校長。校長が一番気にしているのが、既に教官が余っている状態で新たな教官を雇って、その新米教官がバンバン飛び始めるような事態になったら、今順番待ちをして地上で雑用をしている教官達から突き上げがくるんじゃないか、という臆病な理由からだった。私の技量や人間的なところは、今までのコミュニケーションで充分信頼を築けたと思っている。ただ、「今はマズい」と思っているだけだ。だから、彼を動かすには、私が今雇われることを他のKiwiも認めているという証拠を見せれば良い。

PPLリーダー(訓練初期の学生を教えるチームのリーダー)のところに相談にいくことにした。相談に行くというのも結構難しい。何しろ、相手はインストラクター、机に座って仕事をしている訳ではない。普段は空の上か職員室の中にいるわけだが、制服を着ていないので職員室には入りづらい。結構忙しそうにしているし、中々込み入った話をするタイミングが無い。

手紙
ある日の夕方、彼がブリーフィングルームで一人何かの計算をしているのを見た。声をかけると、プライベートで飛行機を借りて乗るために、燃料計算をしているという。iPhoneにその計算をするアプリが入っていて、それが上手く動かないらしい。紙でやればいいのだが、金を出して買ったアプリが機能しないのが悔しいらしく、「この役立たずめ、どういうわけだ!」といらついている。燃料の体積を重量に変換するために比重を掛けるところが上手く行かないらしい。確かに、80Lに0.72をかけて57.6kgになるはずのところが80のままだ。一緒に色々考えて入力する箇所を変えたり数字を変えたりしてやっとわかったのが、燃料の部分は表示は体積のままだけど、計算は重さに変換されて裏でやられているので、合計重量として正しく出てくるから問題ない、ということだった。

なんだ紛らわしい、とイライラを共有したところで話を切り出してみた。

「Jay(校長)とPeter(社長)に営業をかけているんだけど、インストラクターはフルだっていうんだ、どうしたらJayを説得できるだろうか。」とか、「例えばおれが雇われて、次の日にいきなり日本人学生と飛んだりしたら、みんなどう思うかな?」とか、いろいろと聞いてみた。彼は顔が少しエミネムに似ていて、普段はおちゃらけたキャラなのだがこういうときは親身になって話を聞いてくれるとてもいいやつだ。年も近い。色々アドバイスをもらった。最後にReference letter[1]を書いてもらえないだろうかと聞いてみたら快諾してくれた。

自分の担当教官だったJasonにも、どうやったらJayを落とすことができるだろうかと相談し、手紙をお願いした。彼には「I'm a bad speller.」といって手紙は辞退されたが、Jayに口頭で推してくれると約束してくれた。

リーサルウェポン
また、少し前にやったBGTコースの講師だったJohnというおっちゃんにも手紙をお願いした。オフィスに何度も押し掛けて質問しているうちに仲良くなり、書いてくれることになった。彼はJayとすごく仲がよく、尊敬もされているらしい。BGTのテストで93点を取ったことを告げると、ジェットエンジンの絵が薄く背景に印刷された質の良い紙に喜んで書いてくれた。よし、秘密兵器を手に入れた、Jayを手紙攻めにしてやるぞ!


二人の手紙。もったいないお言葉の数々が並ぶ。

つづく。



1. 仕事の取り方について日本との違いを最初に感じるのがこれ。誰かからの推薦状というのがすごく重要で、当たり前に用いられる。履歴書にも、Refereeと言って自分の人となりを知る人の連絡先を記載するのが一般的で、実際にその人に連絡することが多い。



     2013.08.03 Saturday
普通はC-catの訓練中に面接があり、訓練が終わった時点である程度見込みがあるかないかがわかるのだが、私ともう一人のKiwiの場合はそれがなかった。どういうことなんだろうと思ってCVを出すときにそれとなく校長に聞いてみると、

「今は確定的なことは言えない。でも要らなかったら要らないというが、今言えるのはそれだけだ。」

もうこの話題には触れないでくれ、とでも言いたげに目をそらす校長。なんだこれは。聞いていた話と大分違うぞ。同期のMAKIによると、校長に気に入られることがかなり重要らしかった。だから、訓練は一生懸命やっているところを見せた。スムースな舵やポイントをついたパター等の技術面だけではなく、自分の訓練をGoProで録って意見を求めたり、飛行前ブリーフィングで変えた方が良いところ[1]等を積極的に具申し、インストラクターとして自分がどうフライトに向き合っているかを行動で示した。実際、インストラクターをエアラインへのステッピングストーン、踏み石と考え、自分のフライト時間を貯めることしか考えていない手合いは残念ながらかなり多い。校長はそれを知ってか知らずか、「君がそうじゃないことが分かってうれしい。」と言ってくれた。だから、手応えを感じていた。しかしいざ訓練が終わってみると、面倒くさいのが来た、という顔をされる。話が違うぞこれは。なにか対策を考えないと。

ひとつづつ攻略
次に、校長(インストラクターのボス)ではなく社長(CEO)に会いにいった。彼にはおそらく、インストラクターとしてではなく私を雇うことで学校にどんないいことがあるのかを説明するのが良いと思った。C-catインストラクターの裏書きが入った新しい免許を見せにきた、という口実で社長の部屋に入り、とりとめの無い話をする。他のインストラクターにできない、私にできることをさりげなく説明。例えば、日本語が話せるので日本人の学生の満足度を上げることが出来るぞ、とか、ブログのアクセス記録を見せて「一日1000人が私のHPを訪れているから、これを使ってマーケティングをすれば日本人が大挙してやってくるぞ」とか、そういうことだ。実際にはこのブログの訪問者は一日300人程度で1000までいくのはPV(ページビュー)だし、マーケティングといっても私の訓練の様子ををありのまま正直に書いて問い合わせが来たら答えるくらい[2]だから日本人が大挙してやってくるかどうかは未知数だが、嘘は言っていないのでまぁいいだろう。

だがこの社長も「とても素晴らしいね」とは言うのだが、採用についてはJay(校長)の許可が必要だしMasa(日本人のチームリーダー)ともよく話し合わないといけない、と逃げる。誰が採用の権限を持っているのかよくわからない。その後何度も顔を出し、最終的に社長からは「JayとMasaがOKと言うのが先、私がするのは最終判断だけだ。」という言質を取った。忙しそうにしている所をわざと選んで繰り返し攻撃したのが良かったのかもしれない[3]。これで優先事項が決まった。この二人からまずはOKをもらえば、最終権限のある社長と話ができる。責任の所在をはっきりさせた。もう逃がさねぇぞ。

つづく。




GoProで録った動画の一部をMacで編集してみた。スピンリカバリーの訓練で、全部じゃないけど字幕付き。それにしても、よーしゃべるな Jason。




1. インストラクターが飛ぶ前に学生に対して行うブリーフィングなのだが、変えたほうがいいところがわんさかある。
2. 良い所も悪い所も正直に書くのが一番のマーケティングだと思っている。私が学校を選んだときも、一次情報(現地の情報)を重視した。下手に雑誌に広告を出している所はボッタクリだとも思っていた。なぜなら、その広告費は結局学生の学費から出ているのだから。
3. 採用の話を直接しにいくと追い返されるかもしれなかったので、毎回なにか提案のような形で持っていった。そういうトピックなら、社長は話すことそれ自体は断れない。んで最後に思い出したように採用の話をするのだ。



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