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     2014.07.15 Tuesday
note.muに切り替えても全然更新頻度が変わらないので元に戻すことにしました。orz

前回の記事ではシニア教官との差が何か、というところで止まっていたが、そうこうするうちに私にも経験がついてきて、PPLまでならだんだんと訓練の作り方が分かるようになって来た。訓練計画の全容が見えるようになり、この先どうなるかという見通しがつくと、そこに自信がわいてくる。自分が今やろうとしていることがどんな結果を生むのか、その因果関係が「やったことがある」という強い体験からほぼ確実に予測できるので、安心して判断できるのだ。ジュニアのときに何をするにもおっかなびっくりなのは、「この判断で本当に良いのか」はやってみて答えがでるまで100%確信を持てないからだ。[1]

かように経験というのは間違いなく「全体を見通す能力」の構成要素の一つだが、自分に経験がついてくることで分かって来たのは、「経験がある」というだけを誇るのは、ちょっとつまらないよなということ。

ふつう、教官は学生に対してより多くの経験がある。そりゃぁそうだ。でも、だからといってその教官がパイロットとしてその学生より優れているかというと、そこは断言できない。経験を積むということ自体は誰にでもできる。始めたのが早いか遅いかだけの違い。経験のアドバンテージを差し引いて初めて、パイロットとしての価値を比べられる。でも、経験はとても強い武器なので、それだけでも時間がある程度経てば(今の私のように)なまじ全体を見渡すことが出来てしまい経験の少ない者に対して「なんだ、そんなことも出来ないのか」と言ってしまいがちだ。でもまてよ、自分が学生のときはどうだったよ?と。

例えば、エンジンをスタートして滑走路脇につけるまでの間、多くの学生はプロシージャや無線など「そのときにやらなければいけないこと」を一生懸命一つ一つこなしていく。でも、教官はその間に他の飛行機の位置を確認したり、天気の状況を見たり、頭の中で離陸後の計画を立てていたりする。つまり「一歩先のこと」を考える。そしていざ滑走路から飛び上がった瞬間には、同じ飛行機に並んで座っている二人のパイロットの間に大きな状況認識、つまりSAの差が生まれ、判断の差がうまれる。だから教官は「なんでこんなこともわかんないんだ」って言いたくなったら、自分が学生のときはできてたっけ、って一度立ち止まって考えなければならない。これは構造的な問題であって、経験が絶対に必要なことをLow hourの学生にギャーギャー言ってもしょうがない。[2]

さて「全体を見通せる力」と今まで言ってきたこの概念は、記事のタイトルにもなっているSituational Awareness[3]あるいはSAといって、パイロットが身につけなければならない最も重要な能力の一つだ。周りで何が起きていて、その状況から自分がどのように行動すれば最適な結果が得られるか、把握、予測、判断、そして行動[4]すること。そのSAの水準の違いがどこから来ているのか、ただ単に同じことを繰り返して慣れただけなのか、それともなにか他の工夫があるのか。

SAを向上させるには、経験、知識、コミュニケーションの3つの側面でアプローチする。前述したように、もっとも強力なのは経験だが、時間がかかる。一方で、知識は自分で勉強して身につけられるし、人に聞いて経験のなさを補うこともできる。この二つがジュニアのときはその経験の少なさを、シニアになったら経験の多さから来るマインドセットを是正してくれる。

私がぺーぺー教官だったとき(いまでもペーペーだけど)受け持った学生にはずいぶん迷惑をかけたかもしれないが、少なくとも経験のなさを言い訳にすることは絶対にやめようと思った。ジュニア教官だからって学生が割引をされるわけでもなし。[5] プロとしてのプライドを持ってやったし、新しいレッスンの前には必ず前日予習をして時間を無駄にしない方法を考えた。地上でフライトのイメージを作ったり、師匠にレッスンのコツを聞きにいったり、グーグルアースのフライトシム機能を使って実際に「経験」したり、あらゆる工夫をした。そうして、とりあえず私のレッスンが「商品」といえる水準になるようにした[6]。もしその工夫をしなかったら、経験が追いつくのを待っていたら、おそらく売り物にはできなかったはずだ。


そしてある分野でたくさんの経験を積んでも、他の分野でビギナーになることは可能だが「経験を積む」ことでしかSAを向上できない者はそこで止まってしまう。フライトというレイヤーでのSA、その日の訓練というレイヤーでのSA、さらにはある訓練全体というレイヤーでのSAと、SAはあらゆるレイヤーで自分が今どこにいて、この先どうなっていくのかを把握するのにとても便利だ。なにもパイロットに限った話ではない。あらゆる「習熟」が必要な活動、スポーツや経済活動にも有効な考え方だ。

お試しあれ。




1. 厳密には経験があっても100%の確信をもつことなんてあり得ない。むしろその上にあぐらをかくことで足下をすくわれることもあるだろう。
2. ちゃんと意図をもってぎゃーぎゃー言うのはアリ。でもたいていぎゃーぎゃー言う人はそうする方が簡単だからそうしているだけのような気がする。「厳しさ」っていうのは慎重に使わないと。指導者側の怠慢と表裏一体だから。
3. リンク先のビデオはよく出来ている。オーストラリア航空局から出てるSAの解説。受け持った学生には、飛ぶ前にまずこれを観せている。
4. OODAループについては、こちらの解説が秀逸!

5. 訓練費は一緒でも教官のもらう給料には差がある。その差額は学校がかっさらう。当然だけどなんか納得いかない。笑
6. 逆に、分からないことは分からないと言った。知ったかぶりをすることは、虚偽表示するのと一緒だから。プロプロという気負いも考えものだ。重要なのは、すーっと素直にまっすぐに、フラットに、素人然として立つこと。難しいけれど。



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2018エアライン

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